翌日も、その翌日も、私と夏子ちゃんはおむつのことを忘れるよう努力した。その甲斐あってか、あの日を最後に、おむつに関する話題が一切上がって来なくなった。

だが、おむつと決別してから1週間も経つと、私と夏子ちゃんは、予期せぬ形でおむつに襲われることとなった。それは、妄想や欲求といった、私たち自身から自発的に来るものではなかった。

禁おむを始めてから7日目の朝、私と夏子ちゃんのもとに異変が起きた。

目を覚ますと、突然ひんやりと濡れた感触が腰から太ももにかけて伝わってきた。もしやと思い、掛布団を剥がすと、目の前に現れたのはあの頃のトラウマだった。

「うっ、ううっ・・・、うそでしょ・・・」

おねしょ・・・。それは、眠っている間におしっこが暴走して、布団を大胆に濡らしてゆく何とも恥ずかしい生理現象。

私の場合、高校生の半ばごろまで常習犯だったため、今でも布団を濡らしてしまったときのあのトラウマな感じを鮮明に覚えている。

それゆえ、今回のおねしょが与えた衝撃は非常に大きかった。

敷布団に大胆に描かれた、本来あるべきものではないはずの世界地図、おしっこ特有の臭い、そして、朝っぱらからわざわざ日の当たる所で干さなければならない忙しさと恐怖心。

これらはすべていじめっ子たちにとってはハンバーグに目玉焼きとエビフライが乗ったようなもの、つまり、大好物だ。

「ふえぇん・・・」

どうしていいかも分からず、私はしばらくの間、布団の上にへたり込んでしくしくと泣いていた。



だが、この日は授業のある日だった。

おねしょというみっともない理由で学校を休むなどという不名誉なことはしたくない。その気持ちが、今の私を奮い立たせる大きな力となってくれた。

今日限りはちゃんと恥ずかしい思いをしよう。翌朝もダメだったら、本気でおむつを穿くか否か考えればいいと割り切り、失敗の跡をてきぱきと処理した。

そして、夏子ちゃんを起こしに彼女の部屋に入ったが、ここもまた事件が発生していた。

いや、『事件』では済まないかもしれない。むしろ、『大惨事』と呼んだ方がいいかもしれない。

「ふええぇぇーーん!!さなちゃぁーーん!!」

「ちょ、ちょっと!どうしたのなっちゃん!」

「さなちゃぁん、夏子、おねしょしちゃったぁー!!」

「えっ!?おねしょ!?どれどれ~」

夏子ちゃんの掛布団を剥ぐと、私以上にぐっしょりと広範囲に濡れた敷布団が現れた。上は背中の中心ぐらいにまで達している。相当な量のおねしょをしてしまったのだろう。

「あちゃぁ~、いっぱいやっちゃったわね。気にしない気にしない。私も今朝やっちゃったから。気を付けてたらおねしょしなくなるわよ♪」

「うん・・・」

夏子ちゃんは何とか私の話に反応してくれた。だが、私の話を聞いていた時、終始落ち込んだ表情だったのが気がかりだった。