その日に見た夢は、御伽噺の楽園の夢だったと思う。
一面に広がった緑の大地に小鳥や小動物が戯れ、食料や酒は尽きる事のない、夢にしか存在しない世界だ。
それでも、そこには俺が欲しい物が無かった。
どこを探しても、いくら呼びかけようと、姿は見えない。
やがて俺は力尽き、大地に仰向けに倒れる。
こんな事が永遠に続くなら、きっとここは楽園なんかじゃない。
例えるなら、これは俺を閉じ込めた――
「祐史」
倒れた俺の横から、誰かの声。
それは、必死で探していたもの。
◇
瞼にのしかかる優しい悪夢を振り払い、祐史は目を開いた。
コンクリート剥き出しの壁に囲まれた部屋が、窓から薄いカーテン越しに差し込む朝日に照らされている。
「祐史、おはよう」
同じベッドの上で祐史の隣に寝そべりながら、真紅の長い髪の少女が微笑みかける。
背中にかけた毛布一枚の下に見える体は何も身に着けておらず、そのあまりにも白い肌が朝日に眩しい。
少女の身体は、十歳にも満たない幼児のように小柄である。
その透き通るような白い肌のイメージも手伝い、手を触れたら壊れてしまいそうな繊細さを感じさせる。
「ん……おはよう、利奈」
祐史の言葉全てを逃すまいとするかのように、利奈の獣の耳が細かく震えた。
利奈は、ホモ・サピエンスとは違う遺伝子を持って生まれたトランスヒューマンであり、そして祐史の恋人である。
一見すると年齢、格好共に釣り合うものではない事は祐史も承知の上だが、二人を否定する者が誰も無い事は、当人達が一番良く知っていた。
「祐史、なんだか辛そうな寝顔だった。怖い夢を見たの?」
「うん、途中まではね。でも利奈が助けてくれた」
本当の所、夢の最後は覚えていない。
しかし、利奈の声に安心したのは本当だ。
「私が?」
「おかげで、いい目覚めだよ」
「本当?良かった」
「さあ、朝ごはんにしようか」
「うん」
祐史は一足先にベッドを出て、カーテンを開く。
清清しい青空が窓の外に広がっており、遠く見下ろした先には海が広がっている。
差し込む光が八畳のベッドルーム全体を明るく照らし出し、二人の一日が始まった。
「あ……」
ベッドから立ち上がった利奈が微かな声を漏らす。
「どうしたの?」
「祐史、私またやっちゃったみたい」
彼女は耳を垂らして、申し訳なさそうな顔をしながら答えた。
毛布から出た利奈はたった一つを除いて何も身に着けていない。
彼女の小さいお尻に当てられているそれは、幼児用のテープ止めタイプの紙おむつだった。
他の下着よりいくらか厚みのあるそれは、一晩分のおしっこの重みで前あてを垂らしている。
「いっぱいでちゃったみたいだね」
「うん……」
白く細い指が、垂れたおむつに触れる。
「すぐ替えてあげる。起きたばかりで悪いけど、また横になって」
ベッドの上にタオルを広げ、その上に利奈を寝かせる。
音を立てるマジックテープを外し、前あてを手前に開くと、おしっこで濡れた性器が露になる。
しかし、それは少女と呼ぶには似つかわしくない、小さな棹と袋である。
「おちんちん、綺麗にしてくれる?」
「うん、すぐに気持ちよくしてあげる」
二人とも、利奈は女の子であると確信しているが、たった一つの違いが体は男である事を物語っている。
遺伝子操作で作られるトランスヒューマンの容姿に人の手が入っている事は自明であり、利奈のように美少女の容姿を与えられた男児も決して少なくない。
それに加え、トランスヒューマン技術の応用で同性同士の遺伝子から子供の遺伝子を作り出せるとあれば、同性婚合法化の動きに歯止めが掛からなかったのも、無理は無い話である。
尤も、祐史が望んで利奈を男の子に作ったわけではない。
二人の出会いは、全くの偶然であった。
「さあ、足をちゃんと広げて」
「うん」
利奈は両手を使い、ひざの下を持って足を広げる。
祐史はその股間に顔を埋めると、利奈の小さな性器を口に含んだ。
「にゃぁんっ!」
押し殺しても漏れ出る利奈の声が、コンクリートの部屋に反響する。
舌が触れる度に細い腰がわずかに反り、抑えきれない快感を祐史に伝えていた。
「口で綺麗にしてあげるの、なかなか慣れないね?」
「うぅん、……我慢して、るからぁっ!」
水音と利奈の声はだんだんと大きくなり、それにしたがって舌に触れる小さな肉が硬くなっていく。
その感触の変化を確かめた祐史は、顔を離して袖で口を拭った。
「ほら、綺麗になった」
「はぁ……私、もっと綺麗にして欲しいかも」
少し息を上がらせた利奈は、浮かしていた腰を下ろしてベッドに埋まった。
「それじゃ、いつまでもおむつを替えられないだろ?」
汚れたおむつを脇に避け、折りたたまれた真新しい紙おむつを腰の下に広げる。
背中側のスリットに尻尾を通し、テープで止めればあとは人間用のおむつと変わらない。
「さあ、出来た。履き心地はどうかな?」
まだベッドの上で顔を赤くしている利奈は、パステルカラーの新しいおむつに触りながら感触を確かめている。
「とーっても、気持ち良い。ありがとうね、祐史」
「どういたしまして、姫」
そんなやり取りをしながら、祐史が差し出した手に支えられてベッドから立ち上がる。
「じゃあ、朝ご飯にしようか。今日は何を食べるかな」
「冷蔵庫の中、選ぶほど入ってたかな?見て来るね」
一足先に部屋を出る利奈を追って、祐史も寝室を後にする。
出入り口脇の照明スイッチを押すと、誰も居なくなった寝室には光一つ無くなった。