私にもしも、兄がいたとして。

その兄が私に対して恋心や性的な欲望を抱いていたとして。

そしてそれを告白されたとして、私はどんな気持ちになるだろうか?

きっと嫌悪感を抱くに違いない。私にとって、彼は家族なのだから。性の対象とはなりえないのだから。

分かってるんだ。美穂にとって、私のこの気持ちはそれとおんなじだってことは。

それなのに、どうして。

「おねーちゃん、何やってるの……」

こんなところを、見せてしまったのかな。


歪な恋のものがたり 第一章


「おつかれ美咲。また月曜日ねー」

「うん、またね」

一学期最後の登校日。私は特に難しくもない学期末の試験結果を受け取って、家に帰ろうとしていた。

本当は美穂と一緒に帰りたかったのだが、彼女はこれから先生からのお説教……もとい、話し合いをするらしく、縋るような目で私の背中を見送っていた。

「おねーちゃんが一緒だったらお説教も短くなるかもしんないからっ」

「だめ。きちんと怒られて反省してきなさい」

おろろん、と漫画のような効果音を口にして嘘泣きする妹を担任の先生に引き渡し、私は学校を後にする。

季節はすっかり夏だ。もう夕方の4時だというのに太陽はまだまだ高いところにいる。

「暑いわねー……」

喉が渇いたと怠そうな口調で水の入ったペットボトルをがぶ飲みする美穂の姿とその後に訪れる結果を想像して、私は思わず不埒な光景を頭の中に浮かべてしまう。

「……あはは、我ながらホントに最低」

妹の失敗を喜ぶ姉なんて、クズだ。

私は自嘲気味に呟いて、後ろめたさを引きずったまま帰路についた。

その間もずっと、その汚らしい欲望が胸の中で燃えていた。


「ただいまー、あれ、お母さんいないの?」

居間に母親の姿はなかった。テーブルの上を見ると、

『ちょっと散歩してくるわね~』

という呑気な文面の書き置きが二枚の福沢諭吉の肖像画と一緒に添えてある。

「やれやれ、今度はどこまで行くのやら」

うちの母親には放蕩癖……本人曰く情熱の発散ということらしいが、定期的にふらりとどこかへ旅立ってしまう悪癖がある。

その日のうちに帰ってくることもあれば、一週間ほど家を空けることも少なくはない。父親曰く、「ああいうところがいい」らしいが、私にはその辺がよく分からない。

まあ、あんまり気にしないほうがいいだろう。明日から夏休みだし、たとえ今日の夕飯で冷蔵庫の中が空になっても買い出しに行くことは出来る。

焦って今すぐ何かをする必要はない。試験も終わったことだし、のんびりさせてもらおう。

「……そういや、前に美穂が留守番してた時に変なことしてたっけ」

私は二人がけのソファの上でだらん、と寝転びながら不意に思い出した。

こんな風に母親がふらり一人旅に出ていた時、授業を終えて家に帰ったら美穂が裸におむつ一枚という格好でリビングの床に伸びていたことがあったのだ。

「美穂……何してんのよ」

「ふ、ふえ?お姉ちゃん何で居るの!?」

「いやだってここ私の家だし……というかその格好なによ」

「い、いいじゃん誰もいなかったんだし!というか見ないでよ!お姉ちゃんのえっち!!」

「え、えっちって……ちょっと、押さないでってば、わわっ!」

私はあまりのショックにかばんを取り落とし、美穂は羞恥のあまり目に涙を浮かべつつ逆ギレしながら私をリビングから追い出したのだった。

あとから聞いてみれば、本人曰く一人の時は裸のほうが楽でそのような真似をしていたらしい。おむつをしていたのはいつ昼寝してもいいから、とのことで……。

「あー、なんかアホなこと思い出しちゃったわね」

私は苦笑いしつつソファの上で寝返りをうつ。ぺったんこな胸を必死に隠しながらわぁわぁ叫ぶ妹の姿が思い出されて、微笑ましさと共に邪な感情が浮かび上がった。

「……んっ」

身体の芯が熱い。胸がとくん、とくんと高鳴るのが分かる。私は発情していた。

もしあの時、美穂がおむつ一枚でリビングで眠っていたら。そして私の見てる前でおむつにお漏らしをしていたら。私があの子に何をしていたのか分かったものではない。

「はぁああ、んんっ、はぁん……」

美穂のおむつを脱がせて、赤ちゃんみたいなお股に舌を這わせたい。欲望の赴くままに、あの子の身体を味わいたい。髪の毛からつま先まで、胸からお尻に至るまで、全部全部、私のものに……!

『おねーちゃん、あたし、またおしっこ漏らしちゃうよぉ!』

「いいよ……出していいよ。美穂が赤ちゃんみたいにおむつ濡らすところ、全部見てあげるから……」

私の手が幻の妹を撫でる。濡れそぼったあそこ。汗ばんだ肌。熱に浮かされて涙を浮かべる瞳。私が恋する妹の綺麗な瞳が私だけを見つめている。

「嬉しい、よぉ」

なんて都合のいい妄想だろうか。私の愛欲にまみれて光る汚い手が、妹の身体にいやらしい喜びを教えている。私だけのものになるように、私の欲望だけを求めるように。

ソファの上で悶えながら、私は視線をあらぬ方向へ向ける。すると偶然、部屋の隅に可愛らしいピンク色のビニールの包みがあるのを見つけてしまった。

美穂の紙おむつ。パッケージに印刷された純粋無垢な子供の笑みが私を見返している。その顔に美穂の笑顔が重なった。

どきっとした。美穂の笑顔が私の痴態を見ていた。おむつの取れない赤ちゃんみたいな妹が、それよりずっと恥ずかしくて情けない私の本性を見つめていた。

そう思った時、私の中でずくん、と何かが疼いた。気づけば私は美穂の紙おむつが、欲しくて、欲しくて仕方なくなっていた。あの子と同じ恥ずかしい下着に足を通したら、その下着の上から慰めたら。

「どれだけ気持ち良くなっちゃうのかな?ねえ教えてよ、美穂……」

私は股間からとろとろと愛液を垂れ流しながら、たっちのできない赤ちゃんのように四つ足ではいはいしながらおむつの袋に近寄っていく。

そして、おむつを一枚抜き出すと、慎重に両足に通していった。ふくらはぎ、膝、太ももの順に柔らかい紙おむつのギャザーが優しく撫で上げていく。それが私には美穂の愛撫のように思えてしまう。

気持ち良すぎて狂ってしまいそうだ。おむつが上に引き上げられる度に、心臓が破れそうになる。

たぶん、サイズは問題ないと思う。少しだけ太ももの部分がきついけど、それをゆっくり引き上げるのが、かえって焦らされているみたいに感じられて興奮してしまう。

力が入らない。快感のあまり腰が砕けて、私は床の上で膝立ちになってしまった。

夏場の犬みたいに舌を突き出しながら、はっ、はっと息を吐いて変態的な歓びに咽ぶ。

そして、おむつを上まで引き上げた瞬間。私の頭のなかで声が聞こえた。

『お姉ちゃんも、赤ちゃん?』

「うぅ、んんっ!ふああああああああああああああん!!」

違うと言おうとして、でも美穂と一緒が嬉しくて。私はおむつの柔らかさに包まれたまま絶頂し、おむつの中を潮と愛液でぐしょぐしょに汚した。

ぶしゅう!びしゅう!と紙おむつの中から何度も水が吹き出す音が聞こえる。

頭が沸騰し、そこにあったはずの思考や注意は涙として流れ、あるいは汗となって蒸発した。

腰ががくがくと震えて、全身が何度も痙攣を起こした。

(いいよぉ……美穂と一緒になれて、気持ちよくて、嬉しくてぇ……)

そのまま、しばらく私は動けずにいた。やがて身体を浮かせていた熱もほどけて、ぼけた視界もゆるやかに鮮明なものへと変わっていって、そして……。

私の目の中で、焦点が絶望を結んだ。

「おねーちゃん、何やってるの……」

私の姿を見た美穂が、どさり、と床にカバンを落とした。

「あ、あっ……」

美穂。違うの。これは違うのよ。

「どうして……」

見られてしまった。私の中の一番汚い部分を。妹のおむつで発情する変態の顔を。

「お姉ちゃん――」

美穂が口を開く。顔はよく分からない。知りたくない。何も聞きたくない。彼女の口から何かが発せられる前に、私の意識は絶望の中に落ちていった。