僕の学校の図書館には、悪魔がいる。


悪魔といっても怖いような存在じゃない。


「今日も来たのね。純一。さあ、何が読みたい?」


それは僕よりも小さくて、かわいくて、妹みたいなやつだ。その子は初めて会ったときから、僕のこと「純一」と呼ぶ。僕の名前は、俊平なのに。


「うん。あの棚の上の本。読みたいな」


悪魔は喜んで飛んで行った。空を飛べるなんて、やっぱり人間じゃない。けど、尻尾も生えてないし、翼だってない。むしろ僕らと違うことは、スカートの中が、おむつだっていうこと。


「この本でいいかしら?純一」


悪魔は僕の読みたい本を取ってきてくれた。僕は受け取ると、「ありがと」と一礼してから、閲覧用の机に座る。悪魔は僕の横でふわふわ浮きながら、僕の本を横から覗き見る。


「おもしろそうね。この本。後で読んでみようかしら」


彼女は結構大きな声で言ったが、誰も気にしない。それどころか、彼女の存在すら、気付かなかった。彼女は僕にしか見えていないのだ。


「んっ…!」


彼女が小さな声を出した。大体この声の後の行為は決まっている。股に手を押さえ、顔を赤くしている。おしっこを、お漏らししたのだ。僕は本を読むのをやめ、それを借りて外に出る。悪魔はふよふよと僕についてきた。離れないように、袖を掴みながら。


 トイレに入り、おむつを替える。悪魔は僕に新しい紙オムツを渡した。彼女はどこからともなく物を出すのが得意なのだ。僕はまず古い、おしっこをいっぱい吸ったおむつをはずす。アンモニアの匂いが、トイレの中に広がった。お股の部分はレモン色に染まり、まだ温かかった。それを僕に見られただけで、悪魔は顔を真っ赤にした。僕は丁寧に大事なところをふくと、新しいオムツをはかせてあげる。


「ありがと」


今度はこっちが感謝される番だった。


「どういたしまして」


僕は笑顔で返した。


 帰り際、悪魔が聞く。


「ねぇ俊平?」


やっと僕を本名で呼んでくれた。


「あなたは私のこと、何か聞かないの?」


恐れるような視線。僕は至極単純に回答する。


「別に何もないよ?僕は、知ってるから」


そこで悪魔が、キョトンとした表情になる。僕は努めて自然に、このことを聞いた。


「僕らはもう、死んでいるんでしょ?」