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おまけ R 18
 



Caution! Caution! Caution!

この作品はcross drive本家とはほとんど関係ありません。作者の大暴れなだけなので、本作ファンには申し訳ございませんが、そのことをご了承のほど、お願いします。

 

以上のことが理解できる心の広いあなた、そんなあなたにも警告です。この作品は飲んでいる苦いコーヒーさえ激甘にしてしまうほどの、恐ろしいノロケが存在します。そのことをご了承のほど、この先の文を読んでいただきたいです。

 

では、ごゆるりとお読みください。私はあなたの勇気を歓迎します。

Your adviser, Luna Clan Athena Falacescanse.

 

 最近、わしの扱いが悪いと文句を言うと、かおるのやつ、今度の休日に2人きりでデートしに行こうなどと言いだしたのじゃ。……デートというとあれじゃろ?逢引のことじゃろ?ん?違うかの?むぅ…横文字は苦手じゃ。とにかく!わしはそこで言ってやったのじゃっ!

「わしを満足させるじゃと?まだまだ青二才のくせに片腹痛いのぉ!」

と。

 それが、あんなことになるとは……。

 

「お待たせー」

他の皆をねねに預けて、わしの所に来たのが9時13分。約束していた時間は9時。

「軽いの。れでぃを13分待たせたというのに」

ちょいと弄ると、かおるはものすごい勢いで頭を下げ、

「ごめん。でかいこと言ったけど、最初から失敗してばっかだし。けど、けど今日は、これからはいなりのこと、絶対にがっかりさせはしないから」

と謝って来た。そ、そんなにやられると、対応に困るの……。

「き、期待しておるの!」

一応強がってみたのじゃけど、かおるは安心したようなにんまり顔で、手を差し出したのじゃ。

「じゃ、僕がエスコートするよ。手、握って」

ちょ、いきなり大胆じゃの!?

「大丈夫だよ。ほら…」

「う、うむ…。今日は、よろしくの…」

少しばかり恥ずかしいのじゃ…けど、かおるの手は、とっても温かいのぉ…それに、ちょっと大きい…って、そこっ!卑猥な妄想するんじゃない!

手を繋いだわしらは、な、なんか意識すると恥ずかしいの…えっと、別に変な意味じゃなくて…わしらは街の中に繰り出して行ったのじゃ。

 

 連れていかれたのは、少しばかり離れた遊園地じゃった。いろんな遊具がキラキラと回る中で、子供が嬉しそうな笑顔を振りまいている。色とりどりの遊具の中で、わしは真っ先に馬が回る遊具に目がついた。

「か、かおる。あれ、なんじゃ?」

指をさして聞くと、かおるはにこりと微笑み、

「あれは、メリーゴーラウンドだよ。乗りたい?」

と聞いてきた。わしは頬をぷくりと膨らまして目を逸らしながら、

「そ、そんなことないぞ!わしは気になっただけで、別に乗りたいなんて一言も…言って、ないん、じゃから…」

文句を言うが、語尾がつい尻すぼみになってしまう。本当は、すごく乗りたい。あんな可愛いの乗ったら、きっと楽しくて、気持ちよさそうなのじゃ…。いや、あんな子供っぽい乗り物、わしは…。

「じゃ、恥ずかしいなら、一緒に乗る?」

か、かおる!?

「一緒なら、いなりも乗ってくれるかな?」

「しょ、しょうがいのっ!かおるが言うなら、わしは従うだけじゃ。わしは『えすこーと』されるのじゃからな!」

かおるはわしの手を優しく引いて、メリーゴーラウンドまで足を運ぶ。周りの視線が、すごく恥ずかしい。尻尾の先がぞわぞわと逆毛立つのを感じる。思わずぎゅって、かおるの手を握った。か、かおるのせいなのじゃ。わしが、こんな思いをするのは…だから、かおる。わしを、守ってくれの?

「僕と、か、彼女の2人分でお願いします」

薫が少しだけ上ずった声でチケットを買う。わしは決して離れないように、体を寄せて待つ。後ろにいる子供がわしの尻尾に興味を持って触ろうとするのを、

「ダメだよ。勝手に触れちゃ。このお姉ちゃんは、そういうの嫌いだから。君も嫌いなことされたらやだろ?だから、ね?」

かおるは優しく窘めた。そしてわしを連れ、同じ馬の遊具に乗る。

「か、かおる。ち、近いのじゃが…」

乗った瞬間に気になったことを、わしはかおるに告げた。わしに体を寄せて、かおるはわしの手の上から遊具の握り棒を掴む。それだけで、顔が熱くなって、恥ずかしさが倍増する。

「ほら、こうしないと、僕落ちちゃうし」

かおるはしれとした顔で、さもなんでもないように答えた。ふ、不公平じゃ…わしだけこんなに、胸が、ドキドキしてるのに……。

「あ、動くよー」

かおるはそんなわしの気持ちなどに気付かず、楽しそうな声で言った。わしはせっかく乗れたのに、ドキドキバクバクで、それどころじゃない。動くたびに体が近づき、わしの尻尾はびくっびくっと反応してしまう。

「どう、楽しい?」

「た、楽しいぞ。おおー!」

無理に楽しい振りもするも、わざとらしくなってしまう。それでも、かおるは落ち着いた、穏やかな顔しながら、

「そう、よかった」

と言いながら、頭を撫でる。わしはそれが嬉しくて、耳をぴくぴくさせてしまった。顔が真っ赤になってしまってるだろうけど、それすらも気にすることができないほど、かおるの「なでなで」は気持ちいい……のじゃ……。

 結局、一回も落ち着けずに、メリーゴーラウンドは終わった。

 

 そして、立て続けに「じぇっとこぉすたぁ」や、お化け屋敷に迷路、さらに「ゴーカート」で遊び、いつの間にか時間は午後1時になっておった。

「あ、もうこんな時間か…道理でお腹がすくわけだ」

かおるは自分のお腹をさすりながらやれやれといった感じで言った。わしもお腹がすいておったから、「そうじゃな。お腹がすいたぞ。かおる」と催促する。かおるは周りの目ぼしい店を遠目で確認し、その中からある店を選択して、わしを連れていく。

「おじさん。バナナチョコクレープと、イチゴブルベリーミックスを1つずつ」

わしを座らせて、かおるは少し疲れたような顔をした男性に注文する。赤と白のパラソルに、ビニール製のイスと机。持ち運べるタイプの立て看板には、20種類ほどのクレープの名称が並んでおった。食事と呼ぶには簡素じゃが、今はこっちの方が有難かった。

「あと少しでできるってさ」

席に戻ったかおるが、男性に言われたことをわしに教える。わしは鳴りそうなるお腹をさすり、「むぅ…あと少しの辛抱じゃの…」と自分に言い聞かすように言った。かおるはそんなわしの頭を撫で、

「ごめんね。もう少しだから」

とあやす様に言ったのじゃ。わしは妙に子ども扱いされたのがムカついたのじゃが、撫でられているということもあり、静かに怒りを身の奥へと引っ込ませた。

「バナナチョコとイチゴブルーベリーのお客様ぁ!」

そうこうしているうちに野太い声で呼ばれ、薫はクレープを取りに行く。わしはクレープを食べたら文句を言うぞ!と意気込むも、戻って来たかおるにバナナチョコのクレープを渡され、言う機会を失ってしまった。

「うん。甘いねぇ」

当たり前のような感想を漏らし、かおるはクレープを頬張る。わしもそれに釣られ、一口、クレープを食べた。ほんのり甘いチョコと、さっぱりとしたクリーム。それに、蜜のような濃厚なバナナが口の中で踊る。一口で病みつきじゃ!そのまま嬉々として食べるわしを、かおるは優しそうな、それでいてどこか遠くを見るような目で見つめている。

「あ、クリーム付いてる」

ひょいぱくっ。

「あ…」

わしの許可もなく、口の端についていたクリームを取り、かおるは、食べた。わしの顔が、ぼっと沸騰した気がした。

「な、な、何するんじゃ!いきなりっ!わ、わしを子ども扱いするでないっ!わ、わしはか、かおるより、年上なんじゃからなっ!」

わしはさっきのと合わせて畳みかけるような抗議をする。

「ごめんごめん。でも、いなりって、あんまり年上っぽい感じしないんだよね。同級生かそれ以下の感じがするんだ」

かおるはそんなわしの抗議を軽く流し、あんまり嬉しくないことも口走ったのじゃ!わしはもうカンカンで、かおるに向かって罵詈雑言を浴びせる。

「そうやって子ども扱いすると、わしだってただじゃおかんからなっ!それに、いつもわしのこと、後回しにする癖にっ!今回のことだってそうじゃ!白梅や黒百合、たまに夕子、それに真琴ばっか相手して、わしのこと見てくれていないじゃないか!子ども扱いするなら、わしだって!…わし、だってぇ!…う、ううっ…うわぁぁぁんっ…コキューンッ!」

頭の中がぐちゃぐちゃで、最後の方は何言っているかわからなくなった。ただ思いのたけをぶつけて、この厭な気持ちの中から抜け出したくなった。だから、大泣きして、かおるに詰め寄る。

「わしは便利屋じゃないっ!……お主の道具としておるが、それでも…ひっぐ…わしは、わしは偉大なる妖怪狐じゃぞっ…うずずっ…それを、こんな風に扱って、わしのこと、見てくれなくて…わしは…わしはずっと…コーン!…」

かおるは対応に困ったようで、わしを抱っこして、そのまま茂みの奥へと隠れる。大泣きじゃくるわしをぎゅっと抱き、一つ一つ、確認するように呟く。

「ごめん。まずは、謝っとく。寂しい思いさせて、ごめん。いなりに甘えちゃって、ごめん。僕はまだまだ未熟で、いなりなら大丈夫だって思いこんで…でも、やっぱりいなりも、女の子なんだよね。それ、忘れて、ごめん。だから、今は泣いていいよ。甘えていいよ。僕は、素直ないなりが、大好きだから」

「うん…うん…うん。…ありがと。落ち着いた、のじゃ…ずずっ」

見っともない姿を晒しても、かおるは優しく笑いかけて、頭を撫でてくれる。優しくて、大きな手。温かくて、ときには頼りなく、そして時には心強い、その手。

 わしは尻尾を一杯振って、その「なでなで」に応えたのじゃ。

 

 で、落ち着いたのじゃが、その、気づいたら、おむつの中が……ぐっしょりと濡れておった。肌越しに感じる微かな温もりとべちゃりとした気持ち悪さに、わしは尻尾をぶるぶると振る。

「…いなり。漏らしちゃった?」

するとかおるが、わしの耳元だけに聞こえるようにして、尋ねた。わしはかぁーっと顔を熱くし、こくりとだけ、頷く。かおるは、「分かったよ」とだけ言い、背負っていたカバンの中から、いつものセットを取り出す。わしはテキパキと動くかおるを見ているだけで、動くことすらできなかった。

「…よしっ!準備、できたよ」

レジャーシートの上に吸収マットを敷いて、その横には見慣れた道具がいくつも準備してある。わしはことり…と、マットの上に仰向けになって寝る。雲ひとつない、素晴らしいかぎりの快晴。それが周りの木々に寄って切り取られ、まるで緑色の額縁に、青空の絵を掛けたような、そんな風景だったのじゃ…。

「おむつ、開けるよー」

「う、うむ…」

わしの了承を得て、かおるはおむつカバーのホックをはずし、前あてを開いた。急におむつが冷やされ、体がぶるるっと震える。耳が思わず下がり、恥ずかしさが倍増した。

「一杯出てるねー」

「い、そんなこと、言うなぁ…」

朗らかに言われて、余計に恥ずかしさが増した気がした。腰を上げ、おしっこで汚れたおむつを抜き取り、それをビニール袋の中にしまう音が聞こえる。耳から届く音と、体の感触でしか、かおるがやっていることが分からない。

「じゃ、おまた拭き拭きするからねー」

その言葉に、思わず体が強張った。尻尾の毛がもぞもぞと動き、耳は繊細に周りの空気を探知し始める。いつ来るかわからないその感触に、体は緊張し、感覚は鋭敏になっていく。

「ひうっ!」

「あ、びっくりさせちゃった?」

「だ、大丈夫…じゃぁ…」

秘所に触れた湿った感覚は、子供用のおしりふきのものじゃった。わしは秘所を拭かれるたびに、「はぅっ!」とか、「ふにゅ…」などの情けない声を上げてしまう。自分で拭くのと、他人に拭かれるのはこうも違うものかと、わしは毎度このことで痛感するのじゃった。

「あ…」

急にかおるが動きを止める。わしは声の質から何かを見つけたということを察するが、いったい何を見つけたのか分からず、急に不安を覚える。

「いなり。……これ」

かおるは手でそれを掬いあげ、わしに確かめるように言った。わしはちらとそれを見て、恥ずかしさがとんでもないことになってしまう。顔を思わず隠し、差し出されたものを見ないように必死になったのじゃ………。

「いなり…もしかして、感じてたの?」

かおるの指摘も、耳をへたり閉じて聞こえないふりをする。情けない声は上げた。けど、別に感じてなんか……ひゅんっ!

「ほら、こんなにいっぱい…」

「指、突っ込むなぁ…」

かおるは急に大胆な行動を取った。わしの秘所をぐちゅぐちゅと掻きまわし、蜜をその手に取り、もう一度わしに見せつけようとする。わしは掻きまわされるたびに、両の腕を頭の横に上げて拳を握り、喘ぎ声を出して、感じてしまう。声を出すたび、鼓動ががくんと跳ね上がり、恥ずかしさで頭が融けそうになる。

「ね、強がらないで。素直ないなりんが好きだよ。僕は」

そ、そんなこと、言うでない……。

「ね、僕も、このままだと、我慢できないからさ…」

「わ、わかった…のじゃ…」

火照る身体と、焦がれる心がわしの理性を簡単に黙らせた。わしの許可を得て、かおるはズボンのベルトを外して、にょきとした肉棒を空にさらけ出す。赤く鬱血したそのオスの証は、普段の様子とは違う獣と化していた。わしの体はそれでびくりと震え、玉粒の汗が流れる。襲われる恐怖に、獣としての、メスとしての本能が警鐘を鳴らす。

「こ、怖い…よぉ……」

わしの言葉を受けかおるは数秒躊躇っていたが、大きく深呼吸をして、一言、

「大丈夫だよ。いなりの身体は準備万端だから…」

「…ふへっ?ひゅぅぅぅんっ!」

体を貫く挿入感に、全身が大きく仰け反った。感覚だけが先行し過ぎて、理性も、本能も追いついてこないうちに、次の感覚が来る。抵抗することも、排除することもできない。簡単なピストン運動だけで、わしの体はたやすく御された。為すがままにされ、感覚に合わせて嬌声を上げ、性そのものとなったわしを、かおるは優しく抱いてくれる。

「まだ少し…、緊張してるね?」

「そんな…こと、ない…の…じゃ!?」

文句を言い終わる前に、かおるはわしの尻尾をぎゅっと握った。挿入時と同じ、奔流のような快感に、舌を出し、涎を撒き散らしながら応えた。一瞬トぶ意識と、眼に浮かぶ星。明滅する感覚に、わしはその奥を求める。貪欲なまでの獣の本能。体の底からくる快感に、わしは愉しみながらその身を委ね、浸していく。

「ふぁっ…かおる、わし、もう、……イキそう…んっ…」

荒い呼吸を繰り返しながら、わしはかおるに嘆願する。「お願いだから…もう…イカせて…」と。かおるは優しいから、わしを焦らすようなことはしない。「いいよ」と短いながら温かい言葉を、掛けてくれる。

「あ、ああ、イクっ!天まで、昇っちゃうっ!頭が、頭がぁ、だめなのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「僕も、もう、だめ、みたいだ…ううっ!」

駆けあがる天への階段。幸せの気持ちの中に浸り、体全てが弛緩する。中に出される熱い液は、かおるの愛が詰まったミルク。心と体、どこまでも温かくなって、わしはそのまま瞳を閉じた。

 

「はい。終わったよー」

新しいおむつを入れてホックをつけ直すと、かおるはわしを立たせ、おむつの具合を確かめるように言う。言われたとおりお尻と付け具合を確かめ、くるりと一周して動きやすさを確かめる。

「うむ!大丈夫じゃよ!新しいおむつは気持ちいいのぉ…」

「よかった。じゃ、次はどこ行こうか?」

カバンに汚してしまったものをしまい、何事もなかったように立ち上がるかおる。わしはすっきりとした顔で、自然と手を伸ばし、かおるの手を掴む。

「今度は、あれに乗りたいの♪」

「うわー。なんかとんでもない文句ついてるねーアレ」

指差した先には、足をブラブラさせる類の「じぇっとこぉすたぁ」。そこには「時を感じるニューアトラクション」と書かれている。かおるはわしの耳に口を近づけ、

「あれ、おむつ見えちゃうよ?」

と余計な事を耳打ちした。わしは少しばかり顔を熱くさせたが、

「だ、大丈夫じゃ!みんな見てないし、一瞬じゃし…」

とそれっぽいことを言うと、かおるは「そうだね」と同意して、

「堂々としてればバレないだろうし…もう少し時間もあるし、いっそのこと、ここ制覇しちゃおうか」

「おお!乗って来たのぅ!」

朗らかに笑いあい、わしらは「じぇっとこぉすたぁ」の列に並んだのじゃ。

 

色んな「あとらくしょん」に乗って、少しばかり疲れてしもうた。それをかおるに告げ、ベンチで休ましてもらっているうちに、ついうとうととなってしまう。頭が呆ける時間が続き…そのままわしは眠ってしまった。

 

……どうやら眠ってしまったようだ。すぅすぅと寝息を立て、いなりは僕の腕に体を預けている。目の前に手を出し、少しだけひらひらさせた。…起きる気配は微塵もない。僕は彼女の体を支えながらゆっくりと立ち上がり、抱っこをした。ここまでされて気付かないなんて、よっぽど疲れたのだろうか。まぁ、あれだけはしゃいで、疲れないわけないか。

「本当…たまにはこうして甘えさせてあげなきゃなぁ…」

式神として契約してから、僕はいなりを一番の頼りにしてきた。みんなの中で一番のしっかり者で、お姉ちゃん。誰よりも仲間を、家族を大切にする優しい子。そんないなりだからこそ、誰よりも、愛を欲していたのかもしれない。みんなに愛をあげすぎて、飢えてしまったかのように。

「それにしても無防備だな…」

朗らかな笑みのような寝顔。幸せな夢でも見ているのだろうか、時折口がむにゃむにゃと動き、尻尾がふるふると揺れる。本当の子供のような仕草+動物らしい仕草に、僕の顔も綻んだ。

「……かおる……」

閉じた唇から、声が漏れる。起きてしまったかと思ったが、どうやら寝言らしい。瞳は閉じたままで、さらに顔を緩ませながら、彼女は次の言葉を出した。

「……大好き…なのじゃ……」

………………………………家族として、かな?

 頭が色んな事を考え出して、思わず沸騰する。大好きっていったらやっぱりあの意味で…いや、そもそも僕らはそういう関係ではないし…でも、これはデートなわけで…と考えが堂々巡りしてしまう。このまま考えが奈落の底まで行きそうだったから、頭振って気を取り直す。

「……ダメなの…じゃ……」

頬っぺたをピンクにして、何やら色んなことを呟いているいなり。僕がこうやって頭抱えているなんて、きっと気にもしていないだろうなぁと思うと、少しだけ馬鹿らしく思えてきた。

「さて、もうすぐ目的地だ」

誰ともなしに喋り、僕は足取りを速める。……実を言うと、今の状況を他人に、特に知り合いに見られたらとてもじゃないけど言い訳できない。

 寝ている女の子を、お姫様抱っこして連れてく男がいたら、そりゃ、誰がどう見たって怪しいものだ。第一、こっちが恥ずかしくて、余計挙動不審になってしまう。

(もう少し、寝ててくれよ?)

係員以外に見つからないよう祈りつつ、僕が目指すアトラクションへの道を急いだ。

 

「起きて。いなり」

………ふぁ?

「いなり。ほら…起きないとデコピンしちゃうぞー」

「ふぁぁぁぅ…かおる…わし、どんだけ寝」

ておったのか…と続く言葉が止まった。動く感じ。どんどんと上がる感覚。ほとんどガラス張りになっている鳥かご。

「か、かおるっ!こ、ここはぁ…」

「うん。観覧車だよ」

かおるの言葉に、背筋がぞわぞわし始める。あ、あれ、確か、観覧車って…

「かおるーっ!わし、高い所、苦手じゃろがーっ!」

わしの剣幕に、かおるは「あー」と今更気付いたようなを顔して、

「そういやそうだったね。ごめん。でも、見てみてよ!あれ」

嬉々として指差した先には、真っ赤に染まった太陽が水平線の先に沈む、幻想的な風景が広がっていた。

「はわ−…綺麗…」

がくん!

「ほわっ!か、かおる!」

風に揺れ、思わずかおるの体を掴む。身震いが止まらなくなり、耳や尻尾の毛が逆立つのもわかる。怖くてかおるから離れられない。それどころか、風で揺れるたびに、かおるに体を近づけていった。

「た、確かにいい景色なのじゃが…その、怖いのぉ…」

「ほら、そんなに強く掴まれると、服が千切れちゃうから」

かおるに諭され、わしは握っている手を解き、体を元に戻す。でも、周りが見える不安と、風による揺れが、容赦なくわしの心から平常心を奪っていった。

「やっぱだめじゃっ!かおるっ!」

その時のわしは、本当に、高さからくる恐怖で、普段の異性を失っていた。だから、

「もっと、ぎゅっ!て、させて欲しい、のじゃぁ…」

後から考えれば、こんなにも恥ずかしい言葉を口走っていた。

「……えっと」

目を逸らし何か考え込むかおる。わしは怖くて、体にギュッと張り付いて離れない。

「じゃ、じゃぁ…さ」

かおるは眼を泳がせながら、わしに言う。

「とっておきの、おまじないが、あるんだけど…」

「おまじない、じゃと?お、教えて欲しいのじゃっ!」

わしは藁にもすがる気持ちで、かおるに懇願する。かおるは頬を少しだけ赤らめ、わしに目を閉じるように言った。わしはちょっとだけ怪訝に思ったが、おまじないに対する期待と体を支配する恐怖感から、すぅと目を閉じる。目を閉じると同時に、かおるから出る温もりが、肌で感じられるようになる。縁側の陽だまりのような、どこまでも穏やかで、いるだけで安らげる類の、不安とは無縁の温かさ。

「で、どうするんじゃ?かおる」

その言葉に、かおるは何も答えない。途端に不安になり、薄ら瞳を開けた、その瞬間、

唇に、柔らかいものが触れた。

思わず目を見開き、かおるの姿が間近にあるのを確認する。瞳を閉じた、幼さを残した顔が、目と鼻の先にある。吐息がかかるのを感じる。心臓が今にも胸から飛び出しそうなほど、激しく動いている。体の中の熱が、一気に上がるのを感じた。

「…ぷはっ。もう、目、閉じててって言ったのに」

拗ねたような口ぶりで、かおるは耳まで赤くして言った。わしも熱で頭がふわふわした状態になる。無意識に唇を、手に当てていた。それを見て、かおるは余計に目を逸らし、わざとらしく「ゴホン」と咳をした。そのまま数秒、無言の状態が続いた後、先にかおるが口を開く。

「いきなりキスしたのは、ごめん。けど、おまじないは、成功だろ?」

そこでわしは辺りを見回した。もう観覧車は残り4分の1を過ぎており、怖さを感じる高さでは、無くなっている。心臓も、さっきのキスのせいで、それほどドクドク鳴ってなかった。

「……もぅ。でも、最高の、おまじないじゃ♪」

わしは少し恥ずかしかったけど、それでも、嬉しさの方が勝って、ニカッと歯を見せて笑った。かおるも、「どういたしまして」と軽やかに返す。その会話が終わると同時に、扉が開く。

「はいー。お疲れさまでーす。楽しかったですかー?」

係員に促され、立ちあがろうとするかおるの服の裾を掴み、告げる。

「かおるのせいで、景色が満足に見れなかったのじゃ…だから、もう一周じゃ!」

「えっ…でもっ…」

「大丈夫じゃっ!今度は、早めに、『おまじない』、するからのっ」

「………しょうがないなぁ。すいません係員さん。そういうことだから、もう一周お願いします」

係員はニヤついた顔を見せ、

「では降りてから2週目の料金を頂きまーす。ごゆっくりどうぞー!」

と威勢良く送り出して行った。それに気恥しさを覚えながらも、わしとかおるはもう一度、今度はちゃんと、口づけを交わした。

 

 楽しかったデートの帰り。わしとかおるは2人きりになる。疲れたせいか、口が緩い。だからこれも、疲れのせいだ。

「かおる。今日は、ありがとの。その、わしの、我がままに、つき合わさせてしもうて」

かおるはわしの顔を覗きこみ、いつもと同じような、お兄ちゃんの顔をしながら、

「ううん。我がままなんてとんでもない。僕は、みんなの主で、家族の一員なんだから。もっと、甘えてくれたって、いいんだよ」

と言った。わしは「そうじゃな…」と前置きをして、心の中にある想いを、そのまま曝け出す。

「うん。わしも、もう少しかおるに、甘えたいな。普段はいいから、2人きりの時とか…例えば、今…、とか…」

最後の方は恥ずかしすぎて、声という声にならなかったのに、かおるはしっかりと聞いて一言、

「じゃ、おんぶしようか?」

としゃがんでその背を広げた。わしは「えっと…その…」と少しだけ、躊躇ったが、わしが言いだしたことだし、最後まで甘えた。

 案外大きな背中に、心地よい温もり。柔らかい鼓動の音に、優しい声。その全てが、わしを再度の眠りへと誘う。

「かおる…わし…」

「いいよ。おやすみ。いなり」

眠たげな声で言ったら、かおるは全てを察し、菩薩のような響きで、わしの睡眠に、許可を出した。わしは、腕を前へ回し、ぎゅっと力強く握り、離れるものかと心に誓いながら、安らぎの中に溶けていった。

 

おわり

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