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 3 学校編

 

 月曜日。黄山学園に通う児童達が校舎へと向かって歩いている。

 児童は全員寮住まいなので歩く距離はそれほど長くない。

 子ども達の元気な声が響き渡っている。

「もー、信じらんない!何で起こしてくれなかったのよ!」

「知るかよ!ヒカリが遅くまでテレビ見てるのが悪いンだろ!」

「だって、しょうーがないじゃん。見たかったンだもん。“レッ○・クリフ”!」

 小学三年生の少女、美島ヒカリと同じく三年生の少年、青山レイが駆け足でお互いを罵りあいながら学園へと急ぐ。

「大体、アンタも見てたじゃない!」

「そりゃそうだろ。横でテレビ見られて寝れるかよ」

 二人は遅くまで話題の映画を見ていて夜更かししてしまい、朝ギリギリの時間になってしまったというわけ。

 

 二人は何とかギリギリ、教室に間に合った。

「はぁ〜。朝から疲れたぁ」

 レイが机に着くなり崩れた。

 するとお尻に違和感を感じた。

(やばっ!走ってる最中におもらししちゃった!)

 レイは何とか顔に出さないように必死で朝のホームルームを乗り切った。

 ホームルームが終わり、五分間だけの言わば移動時間になった。

 レイ達のクラスはこのまま教室での授業なので休み時間と同じだ。

 レイは急いで紙おむつの入った袋を片手にトイレへと向かった。

 いくら児童全員がおむつっ子とはいえやはり恥ずかしいのだ。

 

 黄山学園のトイレはおむつ替えの関係からか男子用でも個室が多い。

 レイがトイレに入ろうとすると、隣の女子トイレに入ろうとする者が。

「ヒカリ…」

「な、何よ。何か言いたいの?」

「もしかしてヒカリももらしちゃったの?」

 レイがそう言うとヒカリは顔を真っ赤にして、

「ち、違うわよ。レ、レディにそういう事聞かないでよね!バカ!」

 ヒカリは乱暴にドアを閉めてトイレに入ってしまった。

「な〜にがレディだよ。トイレでおしっこできないくせに」

 レイもいつまでものんびりしているわけにもいかないので急いでトイレで新しいおむつを穿いた。

 

 

 授業が始まり、レイ達は教師が黒板に書いた数式を一生懸命ノートに移した。

「じゃあ、この問題。わかる人〜」

 教師がそう言うと数名の児童が手を挙げる。

 レイも当然手を挙げて、と言いたい所だが内気な彼は中々手を挙げれない。

「それでは美島さん」

 教師は早くに手を挙げていたヒカリを指名した。

「はい」

 レイの斜め前の席に座るヒカリが返事をすると同時に立ち上がる。

 何気なく彼女の後姿を見ていたレイ。

 しかし、立ち上がったと同時にスカートが一瞬、まくれ上がった。

「…!」

 ツーとレイの鼻から一筋の鼻血が滴り落ちた。

(や、やばっ!結構見えちゃった!)

 引き出しからティッシュを出し、急いで鼻を拭く。

 それから、レイは授業どころではなかった。

 

 

 何事も無くその日は過ぎて行った。

「ヒカリ。帰ろうよ」

 レイがランドセル片手にヒカリの元へ。

 二人はいつも一緒に寮へ帰っている。

「ごめん。私、ちょっと用事があるから、先に帰ってて」

「何、用事って?」

 ここ最近、ヒカリは用事が多い。

「別にアンタには関係ないことよ」

 レイはムッとなったが、ヒカリがさっさと教室を出て行ってしまったので大人しく寮へ帰ることにした。

 

 トボトボと歩いているレイの目の前にポーンとボールが飛んできた。

「レイー。そのボール取ってくれよぉ」

 声のした方を見ると同級生の草川リクがグローブ片手に手を振っている。

(まったく…。よくガラス割って怒られてるのに精が出ますこと…)

 レイはボールを拾うと思い切りリクへと投げた。

 ボールは弱々しいが何とかリクの所へ。

「サンキュー」

 リクは颯爽と去って行った。

 それをレイはただジッと見つめていた。

 

 

 その夜。

「あ〜。いいお風呂だった」

 寮には各部屋にお風呂が付いている。

 各自でお風呂を掃除し、湯船にお湯を入れなければならないが、専らレイがその役目を押し付けられていた。

「レイも入りなさいよ」

「うん…」

 テレビを見ていたレイが振り返ると、

「う、うわぁ!ヒ、ヒカリ。何だよその格好」

 レイは危うく鼻血を噴出す所だった。

 ヒカリは紙おむつ一枚だけの姿でマグカップに注いだ水を飲んでいたのだ。


「何よ。自分の部屋なンだからいいじゃない」

「い、いや、自分の部屋って、僕もいるし…」

 レイは視線を逸らす。


「レイってば照れてるの?私の裸なんて小さい頃から見てるじゃん」

 確かに。幼馴染の二人はお互いお風呂で背中を流しあったり、裸のままビニールプールで遊んだりしていた。

 でもそれは幼稚園の頃の話である。

「ち、違うよ。た、ただ、もうちょっと、女の子らしくしてよ」

「何よそれ。私は女の子じゃないっていうの?」

「ああ。もう。僕、お風呂入るから」

 レイは逃げるように風呂場へ行ってしまった。

「何よ…」

 ヒカリは少し寂しそうな顔で残っていた水を飲み干した。

 

「まったく…」

 湯船に浸かりながらレイは考えていた。

(ヒカリって、いつまで経っても僕を男として見てくれないンだよな…)

 小さい頃からヒカリの後ろを追いかけてばかりいたレイ。

 内気だった彼が何とか人並みに学校生活を送っているのもヒカリがいてくれるからだ。

 そんな彼女に恋心を抱くのは早かった。

 口は悪いけど、それも彼女の良さの一つだろレイは思っている。腹が立つことも多いが…。

(ヒカリにとって僕は一体何なンだろう…)

 レイは湯船に顔を半分沈めた。

 

 

 次の日の放課後。

「レイ、ごめんね。今日も用事なの。先帰ってて」

 ヒカリは去り際にそう言って教室を出て行った。

「む〜」

 レイはさすがに頭に来た。

(こうなったら後をつけてやる!)

 レイはランドセルを背負い、急いで後を追った。

 ヒカリはレイに気づくことなく、学園の廊下を歩いている。

 レイは一定の距離を保ちながら彼女の後を追いかけた。

 しばらく廊下を歩いていたヒカリがふいにある教室へと入っていった。

(あれ?あそこって…)

 レイが追いかけようとすると、

「あれ〜、青山くんじゃない。どうしたのこんな所で」

 後ろから急に聞き覚えのある声が。

 驚いて振り返ると、そこには同級生の草川夏美がいた。

 彼女はリクの双子の姉だ。

「い、いや…。ちょっと」

「駄目じゃない。部活に入っていない人は下校する時間だよ」

「そ、そうなンだけど…」

「ほらほら。こんな所にいたら怪しまれるよ。早く帰りなさい」

 半ば強引にその場から退去を命じられ、レイは仕方なく帰ることにした。

 

 レイが帰った後、夏美は胸を撫で下ろした。

「あ〜、危なかった。青山くんに見つかったら今までの計画がオジャンだもんね」

 そして夏美はヒカリの入っていった教室へ入っていった。

 

 

 レイは寮への帰り道、頭を悩ませていた。

(ヒカリが入っていった教室。あそこ、確か調理室だったよな…。なんで調理室に用なんか…)

 家庭科の時間に何回か入ったことのある教室だ。

 放課後は調理クラブが使っている。

(ヒカリのことだから、余り物でも貰って食べてるのかな)

 そう思い、レイは足を速めた。

 

 それからはヒカリの用事を特に気にすることも無く一週間は過ぎて行った。 つづく

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