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 優れすぎた科学は魔法と大差ないという言葉を、どこかで聞いたことがある。理由は簡単で、優れすぎた科学は常人では理解できず、あたかも魔法のような、超常的なものに見えてしまうからだそうだ。ならば、この技術は間違いなく魔法だろう。なぜなら、平行世界概念なんて、常人に理解できるわけが無い。


 


パソコンの画面の向こうに、女の子がいた。白い、どこまでも白い髪の毛と、瑠璃色の瞳。


「あなた、だぁれ?」


少女は私に名前を聞いた。ほう、このソフトには音声が搭載されているらしい。私は自分の名前を入力しようと思ってキーボードに触れた。


「ひゃん!」


少女が悲鳴を上げた。私はそれで指を止める。少女は自分の指を見つめ、そして私を見つめた。私はそこで、音声入力対応ソフトであると気づく。軽く咳払いしてから、久しぶりの自己紹介をする。


「私の名前は片瀬 シオンだ」


「シ、シオン?不思議な名前だね」


すぐに反応が返ってきた。なかなか面白いソフトだ。すると、少女は「今度はあたしの番だね!」と元気よく前置きをしてから、自己紹介を始めた。


「あたしの名前はコロン。ファミリーネームはムーンドレイ。王立クレイヒンド魔法学校の基礎学科5年生。得意な魔法は水魔法!シオンはどんな魔法が得意なの?」


いきなり質問してくるコロン。そもそもこのゲームの設定を知らない私は、どう答えようか迷った。説明書にはその手のことはまったくといって書かれていないからだ。そういえば、この手のゲームにそれは妙だと、いまさらながらに感じた。


「どうしたの?シオン。この水晶通信も、シオンが使っているんでしょ?」


コロンが小首を傾げながら聞く。私はそこでクスッと笑ってしまった。コロンはぷくぅと頬を膨らませ怒る。


「シオン。今笑ったでしょ!」


私はまだ笑みのまま謝罪する。


「済まない。あまりに可愛かったから、つい」


コロンは顔をほんのり朱色に染めると、小さく、それでいて嬉しそうに「…ありがと」と言った。その時、私は自分も嬉しいと感じた。なぜかは解らないが、その感情は確かに自分の中に存在していた。


(これが新感覚体感ゲーム?というものの正体なのか)


どうやら、コロンが感じた感情(おそらくヴァーチャル)を自分も共感できるというものだろう。確かに、これはとてつもない技術だ。人間の感情は脳内の神経伝達によって左右されるというが、これはそれを擬似的に再現したと言うことになる。こんな技術は、私が知る限り学会にも出ていない最新技術だ。


「…そうだな。私は心の魔法を研究している」


私はコロンの質問の回答として、こう答えた。コロンの世界観がどうであれ、私がやっていることはおそらく魔法に近いだろうから。


「心の、魔法?」


コロンはその言葉を反復すると、丸くなって考え始めた。先ほどといい、今といい、まるで猫のようだと私は感じた。コロンはひとしきり考えると、きっぱりこう言い放った。


「うん。あたしにはまだわからないや」


なぜかその誇らしげな態度が更に可愛く感じた。うん。コロンは可愛い。


「あっ…」


コロンが急に手を下半身、股のところに置く。


(あれっ?)


その感触が、私にも伝わった。彼女が触っているものの感覚が、私にも感じる。そして同時に、体の内側からあの感覚が降りてきた。まさかと思う前に、私の体からそれは放たれていた。


「嘘、でしょう?私が、おもらし、なんて…」


確かにおねしょは直せてはいないが、おもらしをするほど子供ではない。しかし、私が表意を感じて我慢しようと思った矢先に、おしっこは体から出ていた。それはおむつに吸収されて、秘所やお尻をほんのり暖かくしていく。ゆっくりと漏れるおしっこ。開放感と共に、それは私を気持ちよく感じてさせる。放心するような私の心に、理性など存在しなかった。私はその気持ちよさに身を委ね、おもらしが終わるのを待つ。


「こんなに早く出ちゃうなんて…それにちょっと体が……気持ちいい…」


画面の中では、コロンがそんなことを喋っている。私はそこで、自身の感覚も、ゲーム内に反映されていることを知る。そして、私は自身の感じるこの浮遊感とも取れる気持ちよさを忘れるために、別の考えを巡らせた。そういえば、おもらし前のあの感覚。もしかしたら…


「ねぇ。シオン」「コロン。あなた…」


同時に喋りだす私とコロン。どうやら、聞くことは一緒なのかなと、私は思った。私はコロンに先を促させる。コロンは「ありがと」と一言断ってから、話を続けた。


「シオンてさ、もしかして、おむつ、つけてる?」


短く、それでいて恐れるような彼女の質問に、私は「YES」とだけ答えた。


そして、私と彼女の秘密が重なった。

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