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トップ  >  シュージ作  >  踏み出した先 -第1話

 いつまでも続きそうな先生の長話に耐えるオレの耳に、ようやく放課後を知らせるチャイムが届いた。
 普段は飾りでしかない猫耳に全神経を集中させた甲斐があったもんだ(意味無いけど)。

 もう学校に5年も通っているけど、待ちに待った放課後の嬉しさは今も最初も変わらない。
 「起立、みなさん、さようなら!」
 「「「さようならー!」」」

 適当に話を切り上げた先生の号令が終わると、みんなも待ちかねていたように散り散りに動き出した。
 サッカー少年団のタツヤと仲間達はグラウンドのいいスペースを取りに外に走り出し、気の強い女子達は窓際に固まっておしゃべりに花を咲かせている。

 他にもいくつかのグループが教室に残ってなにやら話し込んでるけれど、そのうち一つ、やたら目立つウサミミ三対が不本意にも目に付いた。
 なにやら興奮しながら、ケータイターミナルの画面を覗き込む三バカは、2年生の時からずっと同じクラスの腐れ縁だ。

 「なんだよ、また何かエロいサイトでも見て――」
 「おお、ヨッシー!いい所に来た!」
 リーダー格のタローがオレの言葉を遮りつつ、人の名前を略して読んだ。

 「ヨシュアでいい。その略し方はなんか嫌なイメージが」
 「言いにくいじゃん」
 「うんうん」「そうだよー」
 シンゾーとヤスも同意する。
 三対一か。マイノリティが尊重されない世の中は悲しいぜ。

 一応、オレの正しい名前は森 芳也だ。芳也と書いてヨシュア。
 親の程度が知れてしまうが、カタカナだけ見れば嫌いじゃない。
 ……それはそれとして、何の用だっけ?

 「タローが今朝お宝拾ったんだよー」
 「まさに宝だぜ、これは」
 そう言ってオレに見せたケータイターミナルには、金髪で超巨乳のお姉さんが、ちょっと見た事無いくらいでっかいチンコに貫かれる動画が映っている。

 おう……これはいくらなんでも、ステレオタイプすぎるよ。
 消音だけど、絶対「オウ、イエース」とか「アイムカミーン!」とか言ってる。
 家でもエロいものは見た事無いわけじゃないけど、これは今時珍しいんじゃないか。
 ああ、そういう意味じゃお宝か。

 「……うん、大切にしたらいいんじゃないかな」
 「なんだよ、冷めてるなー」
 「なら、今度はもっとオレにも楽しいお宝見せて欲しいなー」
 そう言って乾いた笑顔を残して教室を出て行くオレだった。

 

 さて、ランドセルを背負って教室を出たはいいものの、このまままっすぐ帰るつもりじゃなかったんだ。
 そう思い出して廊下で立ち止まった背後から、小走りの音と共に、俺を呼ぶ声が聞こえて来た。

 「ヨシュアくーん、待って!」
 振り返った先には、赤いランドセルを背負った、銀髪の狐っ子がこちらに向かってきている。
 薄緑のキャミソールに白いロングスカートという格好で、歩調に合わせて揺れるふさふさの尻尾も含めてなかなか似合うと思う。

 「今日は帰りにうちで遊ぶ約束だよね?」
 「そうだった、楽しみにしてたんだよ。一緒に『アーク』やるんだよな」
 「僕、あのゲームはちょっと自信あるんだよー」
 そう言ってちょっと得意そうな顔をする。

 正直、こいつは可愛いよ。好みのタイプかも知れない。
 こんな格好で男だってのが、証拠を見てても疑問に思うもの。


 こいつの名前は、鳴俊と書いてなりとし。フルネームで各務 鳴俊だ。
 名前で人の事言えないが、鳴俊も今時いないというか、戦国武将みたいな名前だ。
 あの格好を見てこの名前と容易に結び付けられる奴はいないと思う。

 鳴俊と俺は幼馴染で、家も同じアパートにある。
 学校に入る前から知っていた友達だから、こういう格好をしている事が変だと言う感覚は無くなっている。
 まあ、学校に女装や男装して通ってる奴は他にも10人くらい知っているから、そのうち珍しくもなくなっちゃうんだろうな。

 ただ、女装ともう一つの『特徴』を一緒に持ってるのは確実に珍しいと思うけれど。

 「さっそく帰るか?それとも、フジモリ商店にでも寄ってく?」
 「うーん、その前にさ。……ちょっと、やっちゃったから交換ルームに付き合ってくれない?」
 そう言いつつ、鳴俊はスカートの前をちょっと押さえる仕草をする。

 「あー、そっか。先生の話、長かったもんなー」
 「うん。他の子もたぶん、何人かやっちゃってる」
 「混んでない事を祈るぜー」
 と、俺たちは学校を出る前に寄り道をする事になった。


 その『交換ルーム』は、保健室の隣に作られた特別教室になっている。
 ルームは中央で仕切り壁によって二つに分かれていて、さらに壁から垂直にいくつものカーテンで二畳程度の空間が作られている。
 俺と鳴俊は、カーテンが空いている空間の一つに入ると、そこに置いてある簡易ベッドに鳴俊を寝かせてカーテンを閉めた。

 「いつもごめんねー、僕のお漏らしなかなか直らなくてさ」
 鳴俊がロングスカートを胸元までめくり上げると、小学生らしいブリーフでもキャラプリントパンツでもなく、テープ留めタイプの紙おむつが現れた。
 前当てはすっかりおしっこで膨らんで、薄黄色に染まっている。

 「気にするなよ、一人じゃ替えるのも大変だろうしな」
 まあこの通り、鳴俊はこの歳まで昼間のおむつも取れていない。
 トランスヒューマンには珍しくない事らしくて、こんなおむつ交換ルームもあるんだけれど、さすがに高学年ともなればおむつを卒業していない奴は十分の一を切るはずだ。

 でもまあ、可愛いからっておむつを当てるのも女子の間で流行ってるみたいだし、あまり気にする奴もいない気がする。

 「ちょっと涼しいぜー」
 「はーい」
 バリバリと音を立てて、前当てを止めるマジックテープを剥がす。
 おむつ換えも、長年付き合った俺としてはすっかり慣れたもんだ。
 かなり小さいとはいえ、ちょこんとチンコが美少女についてる光景はまだ脳が慣れてくれないような気がするぜ。

 「んっ、つめたいや……」
 備え付けのウェットティッシュでチンコとお尻を拭いてやると、本当に女の子みたいな声を出す。
 「まあ冬だからしかたない、すぐ終わるよ」

 鳴俊がランドセルから出しておいた替えのおむつをお尻の下にあてて、テープを前で止めれば完了だ。
 「はい、終わった」
 「ありがとう、ヨシュアくん。テープだとやっぱり時間かかっちゃうね」
 「いいって事さ、気にするなよ」


 鳴俊はおしっこの量が多いらしく、パンツタイプでは染み出してしまう。
 それで手間がかかるテープ止めを使わざるを得ないんだけど、おむつ換えルームに担当の先生や保険委員がいるのは休み時間だけ。
 授業中や放課後など、担当が誰もいない時には、俺たちみたいに友達同士で替える事になっている。

 さて、これで寄り道も終了、帰る準備は整った。
 お待ちかねの、鳴俊の家で格闘ゲーム漬けだ。

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