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無言のまま歩く二人だったが、とうとう我慢できなくなった莉緒が口を開いた。


 


「結衣、病気なの?」


 


結衣は黙ったまま莉緒の質問には答えない。意を決して莉緒は話し始めた。


 


「私ね、こないだ掃除当番であのトイレの掃除したの」


 


結衣は莉緒の方をみることもなく、ただ無言で家に向かって歩いていた。


 


「嫌だったら返事しなくてもいいよ、落ち着いたら話してね」


 


結衣を気遣いながら莉緒は話しを続けた。


 


「その時に、今日結衣が使ってた個室でおむつを見つけたんだ」


 


おむつという言葉に、結衣がわずかに反応したように見えた。その表情は涙を我慢しているようにも見えた。それでも莉緒は言葉を続けた。


 


「あの一番奥の個室以外はほとんどゴミがなかったのに、あそこだけに紙おむつがいっぱいに詰まってたんだ。きっと、その子は誰にも見つからないように、こっそりとおむつを替えてたんだと思うの。その子、きっと不安で不安でしょうがなかったんだと思う。だからね、私、そのおむつを誰にも見つからないように、こっそり処理しておいたの」


 


結衣はうつむいたまま、莉緒が話すのを聞いている。


 


「変な考えかもしれないけど、その子を助けたいって思ったんだ。もしかしたら、その子は私の親友かもしれないし、逆に私がおむつの立場だったら、みんなに知られるの辛いもん」


 


莉緒は歩くのを止め、結衣の前に立ちはだかった。結衣はハッとして莉緒の顔も見た。


 


「結衣、ごめん」


 


目の前で深々と頭を下げる莉緒を見て、結衣は目を丸くした。


 


「え、なんで?」


 


顔を上げた莉緒は真剣な表情で結衣に言った。


 


「私、無神経だったなって。結衣のこと、その、知らなかったにせよ、先輩の噂話に乗って、苦しんでる結衣のこと、何にも考えてなかった…」


 


莉緒の顔には涙が浮かんでいた。


 


「助けるなんて、カッコいいこと言っておきながら、本当は話のネタにしてたんだって思うの」


 


  


莉緒は目を真っ赤にしながら結衣に語った。結衣も同じように目に涙を浮かべて言った。


 


「私こそごめん、莉緒にちゃんと言えなくて…。それも、あんなひどいことまで言って。何にも言わなかった私が悪いんだよね。言ったら馬鹿にされるんじゃないかって、不安だったの。これって、莉緒のこと信用してなかったんだなって」


 


 


「ううん、もういいの。だって、私たち元通りでしょ!」


 


二人の顔に笑顔が戻った。二人は今までの喧嘩の答え合わせをするように、お互いのことを謝り合った。そして、結衣の家の前に着いた。


 


「どうして私を家まで呼んだの?」


 


「莉緒には知っててほしいの、どうせおむつのこと隠しきれないし」


 


先ほどの涙はどこにいったのか、お茶目に笑って自分の部屋まで莉緒を連れていった。莉緒がベッドに腰をかけると、結衣はおもむろにクローゼットを開けて、奥からビニールのパッケージを出してきた。


 


そこにはピンク色で、真中に6、7歳くらいの女の子たちの顔がプリントされた大きなパックがあった。


 


「それって、ムーニーマン?」


 


「そう、私が履いてるのと同じやつ」


 


そう言うと、結衣は制服のスカートを脱いだ。スカートの下にはハーフパンツを履いており、よく見てみると、少し膨らんでいるようにも見える。結衣は顔を赤らめながら、ハーフパンツにも手をかけた。


 


目の前に現れたのは、サクランボ柄のゴワゴワした紙おむつだった。間違いなく以前莉緒がトイレの汚物入れで見たものと同じだった。


 


結衣は恥ずかしそうにまたハーフパンツを履くと、自分の過去を話し始めた。


 


 


「私ね、このクセのせいで今まで修学旅行とかも行ったことないの。昔からおねしょが治らなくて、昼間でも気を抜くとおもらししちゃうことがあって…。小学生の時は毎日おむつだったんだけど、中学生になってからは長時間トイレ行けない時とか、トイレが近くなる冬場はおむつしてるんだ」


 


「そっか、だから合同練習の時に…」


 


思い返せば、先輩から噂話を聞いた日も結衣は怪しかった。トイレに何度も行ってるし、あの日は合同練習で長時間トイレには行きにくい状況だった。


 


「うん、あの日から合同練習の日は毎回おむつしてるよ」


 


「そうなんだ…」


 


結衣も黙ってしまったので、莉緒は話を変えるつもりで、おむつ自体のことを結衣に聞いてみた。


 


「ねぇ結衣、ムーニーマンって結衣でも履けるくらい大きいのがあるの?」


 


結衣はパッケージを見ながら答えた。


 


「私には十分大きいサイズだと思うけど…、えっと、パッケージには35キロまでって書いてあるよ」


 


「そうなんだ、じゃあ私でもギリギリ履けるかも」


 


莉緒は身長も160近いし、体重は40前後とスレンダーだった。莉緒は冗談で言ったつもりだったのだが、結衣には冗談に聞こえなかったらしい。


 


「え、本当に?莉緒細いから絶対いけるよ〜」


 


結衣は仲間できた感覚で、大喜びでムーニーマンをパックから出して準備しだした。こんなに喜んでいる結衣を見てしまっては、断るに断れない。元来の好奇心も手伝い、莉緒はおむつを履く決心をした。


  


 


「わかった、履くよ!」


 


そういうと、莉緒は自分でスカートもパンツも脱いだ。さすがにパンツを脱ぐときは恥ずかしかったので、後ろ向きで脱いだ。


 


「じゃあおむつ履くからちょうだい」


 


後ろを向いたまま手を差し出すと、結衣に言われた。


 


「履かせてあげるよ!」


 


莉緒は驚いて反論した。


 


「いや、いいよ、自分でやるから!」


 


「うちではおむつは履かせてもらうって決まってるの!私だって毎日お母さんに履かせてもらってるんだから!」


 


「本当に?」


 


少々の疑いを持ちつつも、結衣が恥ずかしながらお母さんにおむつを履かせてもらっている姿は可愛いだろうなぁと、変な想像をしてしまうのだった。逃れられないと思った莉緒は、腹をくくって結衣におむつを履かせてもらうことにした。


 


結衣はしゃがんでおむつを広げ、莉緒は結衣の肩につかまって、右足、左足と順番に通していった。慣れない感覚に、莉緒の顔は真っ赤だ。


 


おむつを履いて、スカートも履き終わった莉緒は結衣に感想を聞かれた。


 


「う〜ん、なんかゴワゴワして変な感じ。お尻のふくらみが気になるよ」


 


こうして、二人は結衣のお母さんに注意されるまで、おむつをしたまま、おむつについて語り合ったのだ。二人の絆に入ったヒビは、おむつという共通の秘密によって埋められたのかもしれない。


 


トイレの汚物箱に捨てられているという紙おむつの噂。おむつ離れが遅くなっているという昨今、もしかしたら本当にありうる話しかもしれないですね。


 


でも、トイレの汚物箱を覗くのはマナー違反ですからね!


 


FIN.


 

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