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 いなりの構えた刀が空を薙いだ。ヒュッという風切る音と共に洗練された一閃が、スクーネの喉許を切り裂かんとする。スクーネは1歩退きつつ体を捻り回避し、その反動を生かしすかさずストレートを見舞った。こちらはボッと風を割る音を鳴らす一撃。いなりは尻尾でそれを受け止めるも、華奢な体は容易く吹っ飛んだ。


「うぐっ…」


つい力んでちびってしまう。「かぁ」と瞬時に赤くなる顔。だが、今はそれを気にする余裕は無い。刀と尻尾でバランスをとりつつ、変わり果てた校庭に立つ土杭の1つに、地面に対し垂直に降り立つ。通常なら落ちる心配をするが、いなりはそんな素振りすらせずに、今度は水平に、校庭に音も立てずに着地した。


「やはりこの姿だと火力不足じゃな」


頭の中で、これからの戦術を考える。力不足な自身の姿を確認したあと、ちらと夕子を見た。夕子は茂みの中からこちらを窺っている。いなりはすぐにスクーネのほうを見やる。スクーネは左手を握っては戻すと言う行為を繰り返していた。やはり、何か違和感があるのだろう。同じ行為を戦闘中に何度も繰り返している。


「そちらも本調子ではないようじゃの」


いなりの言葉にスクーネは余裕の笑みで返す。


「あたしより自分の心配をしたほうがいいよ。なんせ…」


そこでスクーネは呼び動作に入った。


「次の攻撃はあたしの『とっておき』だからね!」


いなりは表情を戦闘用に切り替え、刀を下段に構えた。スクーネは右足を大きく踏み込む。


いなりの足元から無数の土杭が飛び出してきた。


いなりはそれに気づき、素早く別の杭の上に移動する。


「遅い!」


スクーネは待ってましたと言わんばかりにいなり目掛けて飛び掛る。いなりは2枚のお札を用意し、そのうち1枚をスクーネ目掛けて投げた。お札は火の弾に変わり、飛び掛るスクーネを打ち落とそうとする。


「火力不足だ!」


火弾を右手で弾き飛ばし、勢いを殺さず接近する。


「くぅっ…」


いなりは刀を薙ぐ体勢に入るが、スクーネのほうが早かった。使い魔の、熊の手となった左手がいなりの頭を掴んだ。


「あっ…」


いなりの、抜けたような声。してやったりと笑うスクーネ。


「さようなら。狐さん」


そして、その左手に、力が込められた。


いなりの頭部がいともたやすく圧壊した。


「いなりさん!」


夕子は我も忘れて茂みから出てしまう。その様子を、スクーネは逃さなかった。


「ふーん…そこにいたんだ」


スクーネはいなりだったものを無造作に投げ飛ばし、夕子との間を詰める。夕子はそこで自分が犯した失敗に気づいた。


だが、もう遅い。


スクーネは柱を渡り、夕子のそばに着地し、夕子をその眼で見た。何の変哲も無い眼、が、その眼光は、夕子を金縛りさせるには十分の殺気が込められていた。夕子は人形になったように、動かない。1歩近づくごとに夕子から希望の光が消え、絶望が体を支配する。腰は抜けてしまい、まともに立つことができず座り込んだ。そして、くぐもった音とともに、おもらししてしまう。おむつをしていても聞こえる音に、スクーネは敏感だった。


「君、おむつしてるんだね。うちの妹と一緒だ」


スクーネと夕子の距離は、後3歩。そこでスクーネは止まり、夕子を見下ろす。夕子はスクーネを見ることしかできない。頭は麻痺し、体は硬直している。目は瞬きすることを忘れ、ただただ見入っていた。対するスクーネは、夕子がおもらしする様をまじまじと見た後、微笑ましいものを見るような目で夕子を見た。


「本来なら殺すところだけど、特別に許してあげる」


夕子はその言葉に目を丸くする。スクーネは夕子の体を全体的に見定め、


「君、なかなかにかわいいし、ジュヌエ様のごはんにぴったりだ」


そこで再び凍りついた。目の前の少女が、何を言っているかは解らない。ただ、過去の記憶が、心が、彼女の言っていることが良くないことだとわかっているのだ。


「い、いや…いやぁ…」


夕子は本当の赤ん坊のように、首を横に振り、泣け叫びながら拒絶する。スクーネは右手で空に魔法陣を書き、


「しばらくの間…おやすみ」


魔術を発動させようとする。紫色の光が、夕子に放たれる、その時だった。


 


「おぬしの相手はまだここにおるぞ。スクーネ」


 


一閃が、スクーネの左脇腹を切り裂いた。スクーネはすぐに魔術を発動させるのを止め、振り向く。


「こんな手品に騙されるようじゃ…まだまだじゃのぉ?」


九尾モードのいなりが、下着姿のスクーネと対峙していた。左手には、頭が吹っ飛ばされたいなりが握られている。いなりはそれを空中に放り投げた。いなりの死体であったそれは、空中で揺らめくと1枚のお札に変わり、地面にひらと舞い落ち、消滅した。


「蜃気楼に実体を持たせる札術じゃ。わしの札術の中では『とっておき』じゃ」


得意気な顔で、いなりはスクーネを見た。そして悠然と歩き、夕子とスクーネの間に入る。


「すまぬ夕子。奴の隙を窺う以上、こういう方法しかなかったのじゃ」


「い、いえ…無事で何よりです」


2人の会話を見ていたスクーネは、歯噛みしつつ後退する。


「逃がすと思うか。たわけ」


いなりがすぐさま反応した。手に握られているのは宝剣『炎産霊(ほむすび)』。長さは6尺。柄には儀礼文が刻まれ、唾は無い。その本質は概念を具現化する特殊な武装だ。


「くっ…魔術の格が…違うっ!」


スクーネが放った逃走用の魔術が、概念武装の前に灰燼と帰した。


「流石に本調子ではないがの」


白色の炎の中で、いなりがにこりと笑った。それは、どんな言葉よりも、どんな態度よりもスクーネを戦かせた。対場が逆転し、焦るスクーネ。いなりはそんなスクーネの様子を見て、目を据えた。


「焔よ。裁きの力を我に与えよ。開放『天罰』」


その言霊を『キー』に、術式は発動した。刀は刃が炎と化し、1振りでスクーネを捉え、炎上した。


「熱っ…」


夕子ですら感じる業火の力。その中心にいるスクーネは、蒸発してしまったのかと心配する。


「いなりさん…流石にやりすぎなんじゃ…」


夕子の言葉を受けいなりは元の姿に戻り、


「大丈夫じゃ。わしとて手加減はするぞ」


と頬を膨らませて言った。どうやら拗ねているようだ。夕子は炎が消えた先を見る。そこには気絶したスクーネが、ちょっとこんがり焼かれている姿があった。


「概念の炎はそれを振るうものによって効果が左右される。わしは奴の心を燃やしたのじゃ。だから、あまり体は被害を受け取らんし、心のほうも、火傷する程度の炎じゃから、大丈夫じゃよ」


2人はスクーネに近づくと、その様子を窺った。いなりの言う通り、外傷はあまり見られないようだ。いなりは新たなお札を取り出し、


「これで大丈夫じゃろ」


スクーネに張った。背中に張られたお札は数秒後に光り出し、炎の縛めとなってスクーネの体に取り付く。その様子を心配そうに見る夕子にいなりが説明する。


「これは実は幻術の1種じゃ。じゃから…」


いなりは炎に触った。夕子は驚いてその光景をまじまじと見たが、いなりはゆっくり手を引いた。


「このように火傷などは負わぬ。じゃが、これが炎だと思って触ると、体のほうが自然に火傷するのじゃ。つまり、これは対象の心を縛るものじゃな」


夕子は納得するように頷く。いなりはほうと息を吐き、


「このままこやつはほっといても大丈夫じゃろ。それよりも他の皆が心配じゃ」


いなりは夕子とアイコンタクトする。夕子はそれに頷いた。


「では、いきましょう」


2人は小学校を後にした。


 


白梅と黒百合が張った糸に蝙蝠がいくつもかかる。きぃきぃと鳴いたそれは、もがくことで余計に羽を絡ませてしまい、程なくして地面に落下した。落下した後ももがき続け、やがて動かなくなる。もしくは蝙蝠同士で傷つけあうことがほとんどだった。


「くぅ…使えないやつらですね」


ルコナは使い魔に辛辣な評価を下しつつ、手元の魔術を放った。球状に固定された魔力が変化し、いくつもの光弾となった。赤く煌くそれは縦横無尽に飛び回り、ワイヤーを切断していく。


「……やっかい…」


白梅が石の槍をルコナ目掛けて投げた。ルコナは身動きせずに光弾を自らのそばまで戻し、迎撃する。石と相殺した光弾の代わりをすぐさまルコナは射出した。彼女の意志で動く光弾は、ワイヤーを切りつつ白梅と黒百合に襲い掛かる。


「黒百合…右!」


僕の言葉に耳がひくと反応する。右を見ることなしに、黒百合は大きく翻る。華麗なステップで交わす様は流石兎と言ったところだろうか。ただ、僕と隣にいる真琴はお互い同じことを考えていた。


――おむつ。丸見えなんだよなぁ。


喉まで出かかったその言葉を心にまで戻し、僕は白梅の様子を探った。ちょうど白梅は扇で起こした風で光弾を打ち消すところだった。華麗に舞った風は複数の光弾を打ち消し、その風にのり、ふわりと地面に着地する。こちらはその風によりスカートを捲り上げられ、やはりおむつが丸見えであった。だが、いつもなら恥ずかしがる白梅も、今回はそんなことはしていない。足が震え、肩で息をするその姿は、とても普通の状態ではない。が、それでも白梅は立ち続けていた。


「白梅…」


僕の声を聞いた白梅は、こちらを振り向き笑顔で答えた。玉粒の汗や、荒い息。でも、表情は清々しそうで、心なしか頼もしげだった。だから、僕はそれ以上、何も言わなかった。いや、言えなかった。白梅は耳をくりくり動かし、何かを探る。そして意を決したのか目を閉じ、ふわりと浮かぶ。


「……闇よ……」


言葉と共に両手を天に掲げる。ルコナは訝しげな表情をした後、光弾を白梅に集中させた。掲げた手の先に徐々に力が集約されていくのが解る。


「……んっ……ううっ……」


苦しそうに白梅が悶えた。僕は瞬時に飛び出しそうになるのを、真琴が引き止める。


「今、行くと…お兄ちゃんが危ないよっ!


真琴がいつの間にか半妖化し、猫の耳と尻尾を露出させている。僕がそれでも行こうとするのを、今度は黒百合が引き止めた。


「今、あなたが行っても意味はない。確かにあなたは白梅の大きな支えだけれども、ここは、私の出番」


黒百合は得意気な表情になった後、すぐさま白梅の後ろに立ち、倒れそうになるのを支える。


「……黒百合……でも……」


白梅は困惑した声を黒百合に投げかける。白梅が苦しむと言うことは、黒百合も苦しむということ。なぜなら、彼らは2人で1つなのだから。


「相変わらず全てを背負い込むのね。白梅。でも、私は、それ、許さないから」


黒百合が珍しく本音で白梅を罵倒した。が、それは2人の信頼の証だ。白梅は恥ずかしそうに顔を赤くしながら「うん」と頷いた。


「…『寛容』の闇…」「全てを飲み込め!」


2人の掛け声と共に、その力が放射状に放出した。全ての光弾は飲み込まれ、そして…


疑似世界が展開された。


!?


ルコナは杖を落としてしまう。空中に浮いている自分というものを認識するのに、彼女は5秒かかった。


そして、それだけあれば、2人には十分だった。


「……黒百合……行くよ……」


白梅は黒百合のそばによる。黒百合は黒い糸を振り回し、光弾をすべて切り裂いた。


「ええ!白梅」


その言葉が、合図。


白梅は両手に魔法陣を展開する。それは、本来白梅の技術ではない。白梅は魔術の能力を、ほとんど持ち合わせていない。これは、白梅と黒百合の統合の結果だ。黒百合の持つ技術を得た白梅によって、この技は完成を見た。


魔法陣は大地と空、それぞれに大きく広がる。色は淡いピンク。白梅の名を冠する彼女の色。


「……この波動は!?


ルコナは自らを立て直し、すぐに別の魔術の発動準備を始めた。先程よりも大きな光球。両手にそれを蓄えつつ、複雑な詠唱を始める。それはいくつもの言葉を重ねて言う技法。魔術士が習得する技法の中で、最も難しい技法であり、同時に持つ者は魔術戦で有利に立つことができる。この技法の最大の特徴は「強大な魔術を通常より早くに発動できる」というところにある。魔術は強大になるにつれ、その詠唱は複雑に、かつ膨大になる。そのため、魔術士戦ではチームで行動するか、タイマンかで大きく戦術が変わる。


特に、魔術士同士でのタイマンではより早く、相手より有利な対場を取ったほうが勝つと言われる。なぜならそれを突き崩すには、相手より強大な魔術で突破口を開くか、相手がミスをするまで待つしかないと言われてるからである。しかし、このような状態になった場合、有利な側は率先して不利な側の行動を制限しようとするため、大方の勝敗は決してしまうのだ。


「天界との盟約よ」「その力を我に」「薙ぎ払え」


同時に3つの言葉をルコナが唱え、魔術は臨界に達する。ルコナを中心とする円状の橙色の魔法陣が展開された。文字は西洋言語、おそらくギリシャ語だろう。図形は円と三角形を基本に四角や多角形を様々に組み合わせたものだ。それが文字と共に魔法陣を形作っている。


「…星よ…駆けよ…」


白梅の詠唱と共に天の魔法陣が、


「大地よ。息吹け」


黒百合の言葉と共に地の魔法陣が光りだす。2人はアイコンタクトでタイミングを合わせる。2人はそれぞれの最後の詠唱を調整していた。


「…「我が声に宿りし言霊よ」…「形を成せ」…」


2人の詠唱が終わるのと、


「コズミックライトニング!」


ルコナが魔術を発動させるのは同時だった。光弾は魔法陣の所定の場所に着くとともに破裂し、稲妻となって2人を、そして僕たちを襲った。


「くっ…」


たまの力を使い、瞬時に回避する。この空間では、僕らも浮遊している。浮き上がる変な感覚に戸惑いながらも、次々と襲い掛かる稲妻を回避する。轟音と共に暴れまわる稲妻を、2人は気にしていない。2人の小さな両腕が、天に、そして地に向けられる。


「…「閃光の抱擁」…」


魔法陣が、一際輝いた。と同時に、2人を稲妻が襲う。


「……くうぅっ……」


「ああぁぁっ!」


稲妻に打たれ、2人はその場で意識を失い、浮遊状態になる。僕は瞬時に2人の元へ近寄り、抱きかかえる。重みは無いが、強く抱きしめる都合上、服の上から感じる3人の柔肌は、僕の体をこわばらせる要因としては、十分だった。そして、


世界に光が満ちた。


 


たまは土手を乗り越えると、後ろから突進してくるセフィリアと羊に対し風の刃を放った。


「メリーさぁん!ジャンプです!」


半透明の羊は刃を軽々とよける。たまは突っ込んでくるメリーを避けると抱えている守人をそこに立たせる。


「大丈夫にゃ?」


「たまのおかげで、少しは楽になったさ」


守人は心配させないように強がるが、たまはそれを見抜き、土手に寄りかからせる。


「少しだけ待つにゃ…すぐ終わらせるから…」


再び夜叉化し、セフィリアに向き合う。


「メリーさぁん。止まってください」


セフィリアはメリーから降りると、恥ずかしそうに前を隠しながら、たまを見やる。


「諦めたんですか?」


セフィリアが尋ねると、たまは首を横に振った。


「俺はいろいろ迷惑をかけてるから」


そこで背中からたまの気が溢れだした。目に見える形で生き物のように動くそれは、たまの意識そのものだ。


「これからは、一杯一杯みんにゃのために、できることをするにゃ」


言い終わると同時に、たまは飛び出した。セフィリアはその動きに反応できなかったが、メリーは瞬時に綿胞子を拡散させる。


「甘いにゃ!」


たまは空気の刃で大地を抉り、壁を作る。綿胞子は壁に当たり、霧散した。たまは壁をよじ登り、そして上空から飛び掛る。


風よ(ウェンテ)!」


セフィリアは風の魔術を発動させた。それ自体に攻撃性は無いのだが、強い突風により、相手の体制を崩したり、武器を飛ばさせる基本的な魔術だ。空中にいるたまは、風に煽られ体制を崩す。そこへメリーが綿胞子で追撃する。


そのとき、たまがにやりと笑った。


「行くにゃ!」


たまは敢えてその中に突撃する。意表を突かれたセフィリアとメリーは反応が01秒遅れる。


それだけあれば、たまには十分だった。


たまは痛む体を無視し、着地と同時に突撃する。メリーが体の綿を膨らましディフェンスをするが、


「遅いにゃ」


たまは爪でそれを貫通。そのままそれをセフィリアの喉許に突きつけた。メリーはディフェンスを破られたことへの衝撃からか、身じろぎひとつしない。


「これで、俺の勝ちにゃ!」


たまが宣言する。セフィリアはそのまま腰を抜かし、ぺたりと地面に座り込んだ。スカートから、おむつが丸見えであるが、茫然自失の彼女は、それに気づかない。やがて、彼女は泣き出した。


「ふえぇっ…負けちゃいました…メリーさぁん…」


使い魔の羊が傍らに座り、慰めるように擦り寄った。そして、たまの耳には、はっきりとその音が聞こえていた。


しゅうぅぅぅぅぅ………


自身もよく発生源となる、あの音だった。


「んにゃぁ…」


たまは自分のおむつを触る。おむつは先程交換してもらったばっかりなので、濡れていなかった。つまり…


「ううっ…おもらしもしちゃって…私…ダメな子ですぅ…」


セフィリアは泣き続けるままだった。メリーは戦意を喪失したようで、目で「もう戦いません」と訴えている。たまは頭をかじかじと掻いた後、2人を置いて守人の元へ歩こうとした。


その時、背後から水の槍で、突き刺された。


たまは瞬時に後退し、間合いを取る。幸い、直前で本能的に気づいたからか、急所は外れたようだ。だが、それでも出血がひどいのは変わりない。


「…お前ぇっ…!」


先程まで泣いてへたり込んでいた少女が、にやりと口を歪めて笑い立ち上がった。傍らの羊は急に怯え、そそくさと藪の中に逃げ込んだ。


「だめねぇ…全然だめねぇ…勝ったと思って油断しちゃぁ…」


セフィリアの口調は、先程のかわいらしいものと違う、妖艶で、それでいて残忍なものに変わった。


「そんなでかい隙さらすなんてぇ…馬鹿じゃないのぉ!アハハハハハハハハハハ!!!!


高笑い。頭を揺らがせるような、嫌な類の高笑い。たまは血が少なくなってきたことによる、意識朦朧ガ始まりかけていた。揺らぐ大地。霞む視界。戦闘に大きな影響を与える、感覚が根こそぎだめになっていた。


「まあぁ…これで終わりなんだしぃ…馬鹿なのは治らないわねぇ……」


セフィリアは右手をたまに向ける。


「残念だったわねぇ…だからぁ…」


手のひらの先に光球が形成される。たまは動こうとするが、その時足に絡まるそれに気づいた。先程の綿胞子が、足に絡まっているのだ。


「逃がすわけ無いじゃなぁい…こんなに愉しい得物をさぁ!」


たまは爪で綿を解こうとするが、綿は爪を通すだけで、切れはしなかった。


「ほらぁ…こっちを向きなさいなぁ…」


セフィリアはたまの顎を掴み、顔を向けさせる。たまは射殺す眼光で、セフィリアを見る。


「そうっ…その眼だよ!私が欲しかったのはぁぁぁぁッッッ!!!!


セフィリアは高らかに叫んだ。興奮しているという次元ではなかった。狂気のあまり発言するその姿は、人間ではないように思えてくる。


「ははっ!もう愉しむだけ愉しんだし…あんたいらない」


光球は、すでにたまの頭ほどの大きさになっていた。見ただけで危ないそれは、間近にいるたまの体を消滅させるには十分すぎる威力を持つものだった。


「だから、死んじゃえ」


 


「祓え!」


 


光球が放たれると同時に、その声がたまの耳元で響いた。光球は横から来たお札と当たると、そのままあさっての方向へ飛んで行き、そして川の中で爆発した。水飛沫が天高々舞い上がる。


「…うまくなったじゃないか。赤花」


「これでもまだまだだよ」


たまと守人、セフィリアが同時に声のするほうを見た。守人とたまは驚きと困惑が混じった表情で、そしてセフィリアは苦虫を噛み潰した表情で彼女達を見た。


「大丈夫か?妹さん」


「お助けに参りました!」


双夜と赤花が、それぞれの戦装束を身に纏い、そこに立っていた。


 


青海坊は千里眼で彼らの闘いの様子を見物していた。彼らの追跡、及び護衛がほのかに、そして監視、及び盗聴が青海坊に下されていた。彼も最初、魔術戦となり焦ったが、ほのかの介入や、修行に来た少女達の介入もあって、この任務を続けていたのだ。


 


「高みの見物とは、こういうことを言うのね」


 


突然、声をかけられる。青海坊は冷静にその声のするほうを向いた。


「御久しぶりね。青海坊」


そこには、今回の出来事の中心にいるかもしれない少女のような女性がたたずんでいた。


「あなたが行けば万事解決でしょう。桜姫さん」


桜姫はニコと微笑み、


「それでは彼らのためになりませんし、私のためにも、世界のためにもなりませんわ」


と返した。青海坊はその言葉に訝しみながら、空中を歩く桜姫を見た。所々服に穴が開いているし、焼け跡のようなものも見える。そして、焦げ臭い匂いが鼻についた。


「どっかで戦争でもしたんですか?」


青海坊の言葉に、桜姫は「戦争と言うほどではないですわ」と返した。青海坊は大きくため息をつく。


「やっぱり今回の騒動、あなた原因じゃないですか…」


やれやれといった風貌で、青海坊が言った。桜姫は笑みを崩さず、


「あら、私は今回の騒動の黒幕に会いに行っただけですわ」


と反論する。そして扇である場所を指した。


「原因は、そこ」


青海坊がその場所を千里眼で見ると、そこには3人の子供を抱えた薫の姿があった。


「あの坊ちゃんがねぇ…」


顎に手を置き、考える仕草をする。桜姫は扇を広げ、口元を隠した。青海坊はそこで眉を顰める。桜姫があんな行為をするときは決まって、口元がいやみなほどに笑っているのだ。


「レディに対して、そんな顔しないの」


桜姫は青海坊の頭をこつんと小突く。青海坊はばつの悪そうな表情をした後、


「あなたがレディなんて大人しいタマですか」


と毒づいた。桜姫は「それには自分でも同意しなければならないわね」と自嘲した。しかし、その様子は少しも揺らぐことなく、余裕に満ちている。


「あなただって、アレぐらいは片付けられるでしょう?」


桜姫の提案に、青海坊は「ええ、まあ」と同意した。ほのかはまだまだだが、本来天狗と言うモノは、その辺の堕落妖怪や、簡単な怪異とは比べ物にならないほど、強いのだ。


そこでようやく、ほのかが戦場から離脱していることに気がついた。


「あいつ…勝手に抜け出して…」


「いえいえ。勝手ではありますが、抜け出しはしてませんよ」


背後から声。青海坊は後ろを振り向かず、指をパチンと鳴らした。


風が、瞬時に集まり、青海坊の後ろで渦を巻く。


「ありゃりゃ。やだなぁ青海坊さん。出してくださいよ」


青海坊はその言葉を無視し、桜姫との会話を続ける。


「それにしてもあの坊主が神島家の子供でなんて、あなたはいいんですか?」


青海坊の忠告に、桜姫は今までの舘度とは違う、威厳を纏わせ、


「だからこそ、彼にはこれから幾つもの危機を乗り越えてもらわなければならないのよ。もうすぐ、私も貴方も忙しくなるわ」


と予言した。青海坊は身を震わせ、言った。


「あなたの予言は良く当たるから怖い。用心しなくちゃな」


「だから早く出して下さい。反省してますから」


「五月蝿い。お前は大半口だけじゃないか」


「てへっ。ばれちゃいましたか」


2人の様子を見た桜姫はくすくすと笑い、


「次世代には手を焼きそうね。青海坊」


と他人事のように言った。青海坊は今一度、大きなため息をついた。


 


「大変です。お嬢様がいません!」


「どこへ行ったのやら…」


「あれは、あちらとの通路…まさか」


 


「今頃、兎達は大慌てね」


「もうすぐあちら側ですよ」


「すっごい楽しみだぜ!」


 


宴が、始まる。

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