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トップ  >  黒人形作  >  cross drive  >  cross drive 第四話 Lunatic gardenand Full moon cradle  第2章 nightmare and refusal
僕/私はあの常夜の世界で生まれた。

太陽はない。ただ月が天頂を支配し、延々と海が続く場所。その上にいくつかの島とお屋敷がある。僕/私は紫煙殿と呼ばれる場所で生まれ、育てられた。屋敷の一番奥、奥の院にいるお嬢様と一緒に。

僕/私は兎の子だ。この世界で兎というのは先住の民を表す。このお屋敷は移住者が建てたものだが、働いている人の中には先住民もいた。この世界の先住民は隷属民だ。だが、僕/私は特別だった。きっと愛玩動物なのだろう。世にも美しい顔つきと体つきをしてたから、お館様に見初められたのだ。

「ぜひ娘の遊び相手になれ」

そう言われて僕/私はお嬢様と一緒に、お嬢様と同じ待遇で育てられたのだ。いつもお嬢様と遊び、お嬢様と眠る。僕/私はお嬢様に振り回されてばっかりだけど、それでも楽しかったし、嬉しかった。きっと僕/私はその時から、お嬢様のことが好きだったから。

ある日、お嬢様のところに遊びに行くと、お嬢様がいなかった。どこを探してもいない。僕/私は不安になった。この世界の大人には感情がない。子供の頃はとても感情豊かなのに、大人になると皆ただ作業的に生きているのだ。だから怖かった。お嬢様もそうなるんだと思って。

後で分かったことだが、お嬢様もこのことが怖かったらしい。それで『永遠』を生み出す薬を飲んだ。それを知ったお嬢様のお母様が、その不浄を払うべく月の向こう側にお嬢様を送ったことが。

数年間、僕/私は独りぼっちだった。このお屋敷で、『子供』は僕/私とお嬢様だけだった。だから、お嬢様がいなくなった今、僕/私を相手にしてくれる人は1人もいなかった。淋しかったし、泣きたくなったけど、我慢した。いつも言われていたことを思い出したから。

“泣き虫だね。白梅は”

“もっと強くならなきゃだめだよ?白梅は、男の子なんだから”

奥の院で、独りで待ち続けた。

ある日、お嬢様が帰ってきた。僕/私は嬉しくて真っ先に迎えに行った。

お嬢様は、大人の証である、羽衣を身に纏っていた。

僕/私は驚愕した。お嬢様は僕/私を見ると、何の起伏もない単調な声で、「ただいま」と告げた。僕/私は驚きに喉を詰まらせたせいか、あんまり声が出なくて最初の音が言えず「…かえり」になってしまった。お嬢様はそのまま無表情で紫煙殿へ向かう。僕/私はそこで動くことができなかった。いつの間にか頬を涙で濡らし、とぼとぼと奥の院に帰る。お嬢様はもう子供ではなくなったから、奥の院には入らない。

僕/私は怖くてその夜は一睡もできなかった。お嬢様が怖かったのではない。いずれああなってしまう自分が怖いのだ。僕/私の独りぼっちの日々が始まった。

嫌な夢に覚醒を促された。時刻は朝の4時。日付は5月21日。隣で眠るたまは安らかそうにすうすうと寝息を立てている。僕は寝直すのを止め、少し速い朝食の準備をすることにした。

リビングに着くと、そこには意外な人物がいた。

「白梅?どうしたのこんな朝早くから」

白梅がそこにいた。彼は耳をぴくぴくさせながらテーブルの上で何かを書いていた。低血圧の白梅は、朝が弱いのでこんな早起きしてるのは珍しい。白梅は僕の声に気づくと、こちらを振り返る。その目はなぜか期待と喜びに満ち溢れていた。一体何を期待していたのだろう。

「…あ…薫…」

振り向いた白梅の顔は蒼白で、とても健康そうには見えない。僕は心配になって白梅に聞く。

「どうした?体調悪くて起きちゃったのか?」

白梅は困ったような顔をしたあと、「…大丈夫…」とだけ返す。僕はその顔を見て、嫌な夢を思い出す。僕はそれを振り払うように頭を大きく横に振ってから、台所に向かう。白梅は僕の好意を不思議そうに見た後、僕の動きを目で追い、それが終わるとさっきみたいに何かを書き始めた。

僕はもう1語白梅を見て、また嫌な夢を思い出す。悪夢としか形容のしようのない夢だ。

だって白梅が、僕を殺すという夢だから。

実際は白梅が殺したわけではない。白梅のナカから出てきた何かに殺されたのだ。何であんな変な夢を見たのだろう。僕はその夢を振り払うように料理に集中する。

日が昇り、皆が起き始めた頃、僕も朝食を作り終えていた。

「うわー今日は豪華だね、お兄ちゃん」

真琴が机の上に並べられた料理の数に驚いている。ベーコンエッグにトマトとレタス、コーンと蟹(カニカマ)のサラダ、ソーセージに焼きたてのパン。それになぜかお新香まで出ていたら、驚くのも無理ないが。

「私はいなりを呼びに行きます」

夕子はすでにきちっとした顔立ちをしていた。夕子は朝に強く、いなりや白梅を起こす係をやっていたりする。

「魚ゃがにゃいにゃ!」

たまがすでに机の上で食べる前の臨戦態勢を取っていた。そして白梅はずーと僕のほうを見ている。顔面蒼白なのは変わらず、どうしても心配してしまうが、その度に「…大丈夫…心配…しない…」と返すだけだった。

「遅れてすま…ふぁ〜」

あくびをしながらいなりがリビングまでやってきた。その後ろには夕子。これで全員が揃う。

「いただきます」

全員の挨拶で食事が開始する。たまがすごい勢いで朝食を食べる。夕子は悠長にお新香をポリポリ食べていた。いなりは眠そうにパンにバターを塗っている。真琴はベーコンエッグにかける醤油を探していた。そして、白梅はレタスを中心にいつもよりもずっと遅いペースで食べていた。やはり、調子が悪そうだ。僕は、自分が食べるのも忘れ白梅の様子を注視していた。

「あ、お兄ちゃん…時間!」

真琴に言われてはじめて時間を確認する。もう学校に行く時間まで20分もない。

「やばい!急がなきゃ…」

僕と真琴は仕度を始める。僕は急いで着替え、すぐに真琴の元に向かう。真琴はすでにいろいろ準備していた。僕は真琴をマットの上に寝かせ、スカートを捲らせる。中のおむつは夜中のおねしょを受け止め、ぐっしょり濡れていた。僕は丁寧に、それでいてすばやく秘所を吹き、新しいおむつに替える。布おむつから、目立たないような紙おむつへ。

「んっ…はうっ…」

真琴は顔を赤らめながら、甘い声を出す。そんな真琴の髪からぴょこんと猫の耳が現れた。お尻では黒い長い尻尾が揺れる。真琴は半妖で、こうして恥ずかしいときだけ猫の耳と尻尾が生える。僕はそんなことお構いなしに真琴におむつを穿かせた。

「ほら、できたよ真琴」

「…お兄ちゃんの…意地悪」

恥ずかしそうに口元を隠し、小さな声で僕を罵倒した。それが僕の心に少しばかり刺さる。「まだ用意があるから」と言ったまことを部屋に残し、僕は廊下に出る。すぐそばに、人の気配。

「…ううっ…はっ、はぁ…っ…」

廊下の壁に左手を這わせ、右手でおなかを押さえ、苦しそうに体を支える白梅が、僕のことを見ていた。その眼は、助けてと訴えるものではない。それはなぜ今出てきたのかという恨みと、こんな姿を晒したという羞恥だった。

「し、白梅…大丈夫か!?」

僕は白梅を心配して近づこうとして、

今まで見たことない、白梅から最も遠いと思われた、殺意の視線。明確な殺意が僕を硬直させた。まるで殺意そのもの、視線そのものが凶器だった。

その視線は、錯覚と思えるほどすぐに消え、いつもの白梅に戻る。それから手をだらりと下げ、俯く。小さな、本当に誰にも聞こえない声で何かをつぶやく。それからいつもの表情になり、僕を見た。白梅は無理をしているのか冷や汗をかいていた。それでもしっかり2足歩行をして、最後は僕の横を笑顔で通り過ぎる。

僕は心に淀む空気を無理やり振り払い、仕度をして真琴共に学校に行く。見送りに来た白梅は、やっぱりいつもと変わらない白梅だった。さっきの白梅が夢の白梅と重なり、さらに気分を重くする。今日の授業は自習だったが、それが気になって身に入らなかった。

「きっと気のせいだろ?白梅に限ってそんなことないと思うぞ……まあ、体調も悪いそうだしそっとしておいてやればいいじゃないか」

お昼に守人に朝のことを言ったらそう返された。守人はそれから手に持った分厚い外国語の本をしまい、代わりに大量の携帯食料を取り出す。一緒に座っている圭太はコンビニのおにぎりを、麻紀はお弁当を取り出す。

「それにしても、何で昼食が携帯食料なんですか?コンビニおにぎりの僕が言えた義理ではないですけど」

守人の昼食を見て圭太が聞く。無理もない。誰だってそれを疑問に思うだろう。現に僕も疑問に思った。麻紀も興味深そうに守人の回答を待つ。守人は前僕に返したように、

「別にお腹が一杯になれば十分だろ?おいしい食事が必要なのは本当に特別なときだけだよ。普段の食事までおいしくしようとしたら、作るほうが疲れちゃうだろうしね。それにお弁当を作るってことになったら、1時間は掛かるだろうし、迷惑も掛けちゃうしね」

守人にとって、本当に特別なこととは何だろう?と考えさせる答え。ちなみに、彼が作った料理は手抜きの目玉焼きさえそんじょそこらのものよりも格段にうまかったりする

彼は手に持ったポテト味の携帯食料を食べきると、それらを全て片付け、また本を取り出した。僕も自分の昼食に集中しようとして、

――あれ、前にも同じやり取りしなかったっけ?

というデ・ジャブに襲われる。僕はそのことも守人に聞こうとして、なぜだか止めた。きっと、聞いてはいけない気分にとりつかれたからだろうと、そのとき片付けた。

外でフランス人形が小細工していたとも知らないで。

学校が終わり、帰り道を急ぐ。どうしても白梅が心配だった。だから、いつも以上に早歩き、時には走って帰る。だんだんと熱くなっているせいか、汗が頬を伝う。近道をするために、普段は通らない児童公園を横切る荒業を使う。レジャー向けの、林を切り開いた公園。

僕は通路だろうと林だろうと草原だろうと構わず、最短距離を走り続ける。そして丘に多数の遊具が点在する、クローバーが揺れる丘で、

フランス人形がまだ来ぬ月を待ち続けるように、恋焦がれるように空を眺めていた。それは僕に気づくと顔を僕に向け、にこりと笑みを浮かべる。その顔は、今僕が一番に思っている人に、同じと思うぐらい似ていた。

ウサギの耳がピコピコ揺れた。それから笑みを消し、まるで戯れのように表情を変えた。その表情を見た僕は、いや、その顔を見た僕は、強烈なデ・ジャヴに襲われる。

――そう、あれは、夢の、はず……

その風景は、夢で見たのと同じだった。虚ろで、それでいて悲しみに満ちた目をした白梅。天を覆いつくさんとするほどの大きな月。ひどく苦しそうな白梅の動き。その全てが、まるで手に取るように思い出す。

「あなたは、白梅に何をして、何をされたのかしら?」

誰ともつかない声。その声の主なんて、どうでもよかった。ただその言葉が鮮明に残る。あの時、僕は…

「お兄ちゃん?」

いきなり後ろから声をかけられる。僕は声を出しそうになったのを、何とか抑える。ゆっくり振り向くと、ランドセルを背負った真琴が不思議そうに僕を見上げていた。ほっと胸を撫で下ろしていると、真琴は周りを見渡してから僕に聞く。

「どうしたのお兄ちゃん?顔が青いよ?」

「う、うん……なんでもないよ…」

僕は無理に笑顔を作りながら辺りを見回し、答える。すでにフランス人形はいなくなっており、遊具でいくつかの親子連れが遊んでいるのが見えるだけだった。真琴は僕の態度を不審がりながらも、それを聞くことは無かった。2人で家に帰る。玄関を開けると、白梅が靴を履いているところだった。

「あれ?白梅…どこかいくの?」

「…うん…昌…遊ぶ…」

僕の質問に簡潔に答えると風のように横をすり抜け、エレベーターのほうに走っていってしまう。その姿と態度が、なぜか寂しく思ってしまう。

「いってらっしゃーい!」

真琴は無邪気に手を振り、白梅を送っていた。僕もそれをしようとして、なぜかできなかった。玄関で靴を脱ぎ、そのままリビングまで行き、ソファに座り込む。いなりとたまが対戦格闘ゲームに興じていた。きっと夕子は子供部屋で本でも読んでいるのだろう。真琴も後を追ってきて音子さんに捕まり、おむつを換えに子供部屋に連れてかれた。

「うにゃ!しまったにゃ!」

「フフフ…たま、そのミスは命取りじゃよ」

白熱する2人を傍目に見ながら、僕は先ほどのことを思い出す。

――あなたは、白梅に何をして、何をされたのかしら?――

その言葉が耳から離れない。挑発的な言動。声も白梅に近いが、口調や態度は全然別だった。あのフランス人形のような少女は、何者なのだろう?

この、頭から離れない悪夢は、一体なんだろう?

何故それを僕は、デ・ジャヴと感じるのだろう?

分からないことだらけだ。僕はソファの上で禅問答を繰り返す。その様子を、いなりやたまが心配そうに見つめてることも知らないで。

僕は公園まで走った。ここまで来れば薫も追っては来ないだろう。さっきは冷たく扱ってしまった。それを凄く悔やむ。1度起きてしまったからだろうか、自分が怖い。体の中ではあいつが蠢いてる感覚が強くあって、ものすごい吐き気がする。とてもじゃないけど、まともに顔を上げられない。僕は、適当なベンチの右端に腰掛け俯く。誰かが来て左端に座った。

「苦しいのかしら?それとも悔しいのかしら?あら、言葉遊びみたいで楽しいわね」

聞きなれた自分の声がすぐそばで聞こえる。僕は反射的に顔をあげ、声のするほうを向く。そこには僕と同じ顔をした、フランス人形がいた。

「…黒百合?…」

「『今日』振りね…白梅」

彼女は怒ったように顔を歪め、僕を睨みつける。僕はその顔にどう返せばいいか戸惑った。黒百合は僕の言葉を待たずに、いつもの、それでいて怒りがプラスされた状態で言葉を紡ぐ。

「…私は言ったわよね。あなたが傷つくような方法で違う道に行くのなら、私は止めるって。……あなたは自分が一番傷つく方法で自分の幸せを守るのね」

彼女は僕のお腹に触れる。僕はそれだけで顔を歪めた。気持ち悪さが増す。僕は顔をまともに上げられなくなる。胎内でアレがぐるりぐるりと動いているのが理解できた。

「…やっぱり…あなたはその力を使えばそいつが活性化するのも解って力を使い続けるのね…」

それが僕を非難している言葉だと分かって、どうしても反論したくなり、吐き気を何とか抑えて返答する。

「…守り…たい……白…梅…あの人た…ち…」

黒百合は僕の言葉に声を失う。それから僕の右手を取り、彼女のお腹に当てる。彼女はか細い喘ぎ声を上げたが、すぐにそれを止め僕に言う。

「あなたがそうであるように、私も限界に近いの…わかる?動いているのが…お腹が大きくならないのが不思議なぐらい…」

彼女はゆっくり僕の手をお腹から離し、ベンチから立ち上がって僕の目の前に立つ。僕もちょうど吐き気がおさまってきたときだったから、顔を上げて黒百合を見る。僕と同じ顔。同じように兎の耳を生やし、紅い瞳は僕の顔を映していた。彼女はそっとスカートをたくし上げる。それを見て僕は周りを見渡したが、いつの間にか僕と黒百合以外はこの場所からいなかった。

「…人払い……ルーン…」

「案外博識なのね。ええ。これは私があなたが封印されている間に世界を渡り歩き得た技術の一つ。準備する手間が要るけど、効果は絶大なの」

彼女はパンツが見えるぐらいまでスカートをたくし上げていた。パンツはピンク色の無地で、股の部分がぐちゃりと濡れていた。

「見て…さっきのだけでこんなに濡れるのよ…フフフ…あなたはどうなの?いつもみたいに襲わないの?」

僕は痛いところを疲れて回答に困る。確かに、蠢くと同時に出る渇きが僕の体を襲う。だが、それに負けてはいけないと感じているのだ。だから、

「…しない…白梅……負けない…」

強い意志で答えた。黒百合はその答えを得ると「そう」と嬉しそうな、それでいて悲しそうな声で言って、ゆっくりと僕から離れる。10Mほど離れてから振り向いて、

「…まだ手は出さないわよ。あなたの足掻きに期待するわ。でも、それでもダメなら私が動く。私はあなたを壊させるわけには、いかないもの!」

とだけ言って、ぴょんぴょんと跳ねながら消えていった。すると、急にどこからともなく人が現れ、公園は賑やかになった。僕も、昌の家までの道程を再開した。

夕飯を食べ終わると、いなりとたまに呼ばれてリビングに残される。夕子はいなりの指示通りさりげなく白梅と真琴をリビングから排除。音子さんも空気を呼んでいつの間にかリビングから消失していた。

「どうしたの?白梅や真琴を排除して」

僕はなかなか切り出さない2人に助け舟を出す。

「ちょっとした昔話をするのに、邪魔者はいないほうがいいのじゃよ」

いなりはそういってお茶をズズズと啜った。

「というか、あの2人には聞かせたくないのにゃ」

たまは言いずらそうに頬を掻きながら言う。2人の態度は、なぜかよそよそしい。僕はそれが少し不満で、ついそれを口走ってしまう。

「なんだよ。そんなよそよそしい態度までして話すことって」

言ってから後悔したが、2人はそれを間に受け意を決したのかアイコンタクトをした後、いなりから話し始める。

「かおるは竹取物語を知っておるかの?」

「一応は。かぐや姫のお話のことだろ?」

日本人なら、子供の頃1度は読んだことはあるだろう。竹を切ったおじいさんがかわいらしい女の子を見つけて、5人の貴族に求婚されたりした後、最後はかぐや姫が月に帰ることで終わる、あの物語を。

「そうじゃ。まあこれは源流としては大陸の昔話があるのじゃが、まあそんなことはどうでもいい。実はこの物語は面白い運命を辿っておる。確かにこれは作り話じゃ。じゃがの、これと近いことが現実に、わしらの身近で起きたのじゃよ」

いなりは懐かしむように語る。僕はその先がとても気になった。今度はたまが語りだす。

「俺があいつの従者ににゃってしばらくしたときのことにゃ。俺といなりが竹林で近接戦闘の訓練をしてると、そこで女の子の泣き声がしたから行ってみるとにゃ、いなりぐらいの女の子が泣いていたのにゃ。それがあいつと俺といなりと籠命(かごや)の出会いだったのにゃ」

その続きを今度はいなりが言う。僕はただ聞き入ることしかできない。

「かごやは本当に月の住人だった。もちろん星としての月ではない。わしらの世界を包む混沌は、さまざまな世界を内包しておる。かごやは夜と海の世界から来た異世界人じゃ。わしらは奴を一時的の保護し、匿うことにした。奴の話に因れば、いずれ『永遠』を与える薬の効果は切れて、そしたら月の民が迎えにきてしまうということじゃった。奴はそれを嫌がった。じゃから、わしらは協力することにしたのじゃよ。」

そこでいなりは1枚のお札を出すと、術を唱える。札が古ぼけた藁人形に変化した。

「わしらは先のことを見越して、かごやの心を封印した。月の民はわしが神の頃に会ったことがあるからの。奴らはその天の羽衣で心を眠らせるのじゃ。黄泉の国までその純粋さを保つためにな。わしはかごやの心を封印し、体にある術をかけた。永遠に子供でいたいと願う奴のために、わしらはある人形を使った呪いを掛けた。人形が本人の代わりに年をとるという、悪呪の一種じゃ。これによってかごやは年をとらなくなり、月の使者も欺くことができた」

それから苦々しげに顔を歪める。たまも悲しそうな表情になった。

「わしらが知っているのはここまでじゃ…これから先は…わしらは話せん」

それでお開きとなって、2人は部屋に戻る。僕は何故彼女達がこの話をしたのかわからなかったが、きっと僕の悩みに関係しているのだろう。心の中で彼女達に感謝した後、お風呂に入る。

「籠命に月の民か…」

お風呂の中で1人呟く。まるで絵空事みたいだけど、きっと事実なのだろう。これが、今回のこととどう関係するんだろう?

接点が繋がらない情報ばかりが手に入る。まるで解決しないことにいらいらした。僕がお風呂から出て自室に向かうと、すでに中で白梅がパジャマを着て待っていた。ワンピース調の、薄緑色のパジャマ。僕はその姿の心奪われる。今までのことがどうでもよくなってしまうほどかわいい姿だ。僕は、白梅と早めの就寝をすることにした。2人でベッドに入る。ちょっとだけ狭かったので、寝位置をずらした。すると白梅の兎耳がぴょこんと揺れた。白梅が顔を赤くしながら告げる。

「…薫…当たってる…」

見ると、僕の右手が白梅の胸に当たっていた。僕は慌てて引っ込めようとして、手を捉まれた。そのまま、胸からお腹に移動させられる。

「白梅?」

僕は白梅の行動が理解できない。白梅余計顔を赤くしながら、僕のことを見つめる。白梅は強い力で僕の手を掴んで、離そうとしない。いつもと違う行動をする白梅に、僕はそのまま委ねてしまいそうになった。白梅はワンピースのスカートの中まで僕の右手を誘う。

「白梅ダメだよ!いくらなんでもそんなところに…」

その口を白梅の口で塞がれた。熱いキス。僕が嫌がっても、白梅は強引に僕の舌を自分の舌に絡めて、離さない。僕の手はそのまま彼のおむつの中の秘所へ。唾液に毒でも含まれているかのごとく、僕の体は白梅に支配される。白梅に対し欲情しだして、止められなくなる。熱いディープキスが終わると、白梅は今度はもう片方の手で僕の頭を胸に持ってきた。

「白うっ…」

僕の口の目の前に、白梅に乳首があった。乳首は物欲しそうに勃起し、僕はそこをとても舐めたい気分になる。

「…早く…舐めて…」

白梅は甘美な声で僕に囁く。もはやそれは悪魔の囁きだった。心が拒絶しようと体が言うことを聞かないのでは意味が無い。僕の口は勝手に開き、舌が白梅の乳首を転がすように舐める。同時に、右手が白梅の秘所を愛撫し始めた。

「…あっ…ああっ…」

白梅は甲高い喘ぎ声を上げる。それが外に聞かれないか心配だった。それでも僕の体は白梅をずっと責め続けた。体が熱い。白梅の様子が見えないけど、きっと顔は高潮して、瞳は潤みを増し、宝石のように輝いているのだろう。

「…あはは…もっと…苛めて…」

僕は彼の言うとおり、乳首を噛んだりディープキスをしたり秘所を徹底的に愛撫して、官能的に責め続けた。お互い息が荒くなり、やがて熱い息が布団の中を支配する。

「…んああっ!…でるっ!…でちゃう……よ……」

白梅の最後の言葉の後に、右手にどろりとしたものが纏わりつく。それはおむつの中をくちゃりと濡らして、彼が達したことを証明した。僕はやっと自由になる。だが、右手をまだ出すわけにはいかなかった。僕は器用に体と左手を使い掛け布団を剥ぎ、白梅に頼んで一緒にベッドから降りる。白梅は腰が抜けたのかまともに立てなかった。耳がくたーとなり、ぺたんと座った白梅は、とてつもなく可愛い。スカートの角度の関係から、おむつが少しだけ垣間見えていた。辺りを見回し、ティッシュを5枚ほど出してから、やっと右手を引き抜く。手には彼が出した精液がいっぱい付いていた。

「……ゴメン…ナサイ……」

僕の様子をずっと見ていた白梅が、手に付いた精液を見て恥ずかしがりながら呟く。火照ったような顔が、僕の右手を捉えていた。

「…別にそんなに気にしてないからいいけど、どうして急にあんなことしたの?」

白梅は僕の追求に対し、顔を俯かせ答えない。それがすごく寂しく感じる。僕は精液を全てふき取ると、ゴミ箱にティッシュを投げ捨ててから、白梅の顔に手を当てる。そして強引にでもこちらを向かせた。赤い瞳が驚愕によって見開かれる。瞳には涙をため、潤みを増し輝く。

「……離したくないなら聞かないけどさ。何か悩み事があるなら言ってくれよ。僕たち、家族だろ?」

白梅は涙を数滴頬に流し、僕の手を振り払う。僕はその行動に驚きと恐怖を隠しきれない。白梅ははっと気づいたように動きを止め、その後無理にでも立ち上がろうとする。が、腰が抜けている以上、言うことを聞かないようだ。何回か繰り返した後、その動きが急に止まり、また力が抜けたように座り込む。ちょうどこちらにワンピースの中身を見せるような形になっていても、気づいていない。

「…あっ…おしっこ…」

そんな呟きが聞こえた。外からでもわかるほど、勢いよくおしっこが出ているようで、おむつが濡れていく一部始終を僕は見ているだけだった。やがておしっこが出終わると、白梅はおとなしくなる。泣くかと思ったけど、白梅は泣かなかった。僕は、いつも通りおむつを換える。おむつを開くと、中は大洪水だった。いろいろなものが混ざり合って、独特の匂いを放つ。僕はそれに対し、眼を背けなかった。白梅は見たくないとばかりに顔をそらし、目を閉じて口を手で隠し、顔を赤くしている。僕は丁寧に秘所を拭く。念入りに、清潔に。まだ熱を保ったそれは、今の白梅を表しているようだった。

「…終わったよ。顔を向けて、白梅」

白梅はやっと顔をこちらに向け、目を開ける。まだ口を隠し、顔を赤くしたままだけど。

「…嫌い?…こんな…エッチ…白梅…」

白梅は俯きながら、小さな声で聞く。きっとそれが今の彼女を左右する言葉であるのは明確だった。僕は、本心で返す。

「嫌いになるわけないだろ?全てひっくるめて、白梅だ。そんな白梅のことを、僕は家族だって思ってる」

白梅は、はにかみながら笑顔になる。何故かその顔の中に罪悪感があることを気づく。けど、そのことについて聞くことはできなかった。再び眠りにつく。安らかな白梅の寝顔。それが眠る前に最後に見たものだ。

急に目が覚める。なぜかパッチリ目覚めてしまい、やることもないので白梅の様子を見ようと思ったら…

すでにそこには温もりが残っているだけだった。

僕はぽっかりと開いた空間に驚き、そのままベッドから出てしまう。そのまま時計を見た。時刻は11時40分。まだ1時間しか寝ていない。僕は気になって部屋の外に出た。遠くで、ドアが開く音。この距離だと玄関だろう。僕はパジャマのまま玄関に向かう。玄関にはいくつもの靴が並んで置いてあり、その中の、白梅がいつも履く靴がなくなっていた。

「こんな時間に…どこ行ったんだろ?」

僕は気になってそのまま靴を履いて外に出る。廊下から下を眺めると、すでに白梅はマンションを出ているところだった。僕はなぜかそこで付いていこうと思い立つ。パジャマのまま、僕はエレベーターに乗り白梅の後を追う。

そのとき、僕は悪夢のことを思い出す。白梅の自分が殺される夢。やがてそれが繋がっていき…

それが真実であったことを思い出した。どうしてかはわからないが、それは以前体験した真実であると脳は判断したのだ。

白梅が向かったのは大きめの児童公園だった。昼間近道に使った児童公園。レジャー向けの公園は、この時間だとまったくといって人影がなく、ひっそりとしていて不気味だった。白梅はその中をすたすた真っ直ぐ歩いていく。

「白梅…やっぱりここに…」

僕は気づかれないように白梅の後をついていき…

そうして、ここに辿り着く。いくつもクローバーが風に揺れ、坂を利用した遊具が多数点在する。昼間フランス人形と邂逅し、あの悪夢、いや真実を思い出させた場所。そこに、

月の王子が君臨していた。

丘の頂上、大きな銀月を背後にして、白梅は僕のことを見下ろしていた。その目は虚ろで、それでいて悲しみに満ちていた。耳が風に揺れ、右手はお腹を押さえていた。

ここまで全て、夢と同じ。やはりあれは体験した過去のようだ。そうなると白梅が次に言う言葉は…

「…どうして…」

風に掻き消されるように小さな声で呟く。僕の耳には「…ど  て…」しか聞こえなかったが、何故かその言葉の内容を理解していた。僕は、彼が泣いているのを知っている。僕は彼に答える。

「白梅のことが、心配だからだよ。だって家族を心配しない奴がどこにいるんだよ…」

彼はその回答を得て喜んでいるのか悲しんでるのか、わからないような表情を浮かべていたが、急に顔を歪め、右手に入る力を強くしている。顔を朱に染め、「あっ…ああっ…」と喘ぐように声を上げる。僕は、そこで動くことをしなかった。きっと動くのが正解なのだろうけど、それでは悪夢から何も学んでいないことになるから。

「…逃げて…もう…ダ…メ…」

彼は泣きながら訴える。それが彼の最後の言葉だった。彼はそれから喋らずに体のナカのものと格闘する。やがて事切れるように「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」と甲高い断末魔をあげた。そして、

彼の胎内から、1匹の魔物が生まれた。

それは彼のお腹を食い破り、外に姿を現す。白梅は空ろな瞳で自分が産んだ生物を見ていた。すでに目に光は無く、からからとした笑みを浮かべるだけ。魔物は真っ黒だった。ぎろりと赤い瞳だけが異様に輝いている。

「フフッ…生まれ…た、ああっ…のね…あっ…」

後ろから声。振り向くと、そこにフランス人形が苦しそうに、それでいて嬉しそうに顔を歪めながらこちらに近づいてくる。すでに顔は真っ赤になっていた。白梅そっくりな少女は僕を見ると「そう」とだけ言って、横を通り過ぎる。そして、魔物の目の前に立ち、宣言する。

「わかっ…てるわ…私も、ああっ!…あな…たの…仲間を、…んああっ!…生ま…なければ…ね…あっ!…ああっ!んぐぅっ!…んぁぁぁぁぁ!」

そして、今度は彼女の股の間から魔物が出てきた。彼女は僕に背を向けているから、表情はわからない。ただ、その声だけは僕の耳から離れなかった。

「あはっ!生まれたよ!わぁたしっ!産んじゃったぁぁっ!あはっ!あははははははははははははっ!!!」

やがて、2匹の魔物はこの世界に産み落とされた。1つは母体を食い破り、もう1つは母体を壊して。魔物たちはもう母体には見向きもせず、次の獲物である僕を見る。姿は鼻の部分が角に置き換わった土竜のようだった。角の部分は触手で構成されており、1つ1つが独立して稼動する。2人から生まれて間もないころは小さかったのに、いつの間にか大型トラック並みにでかくなっている。

きっと、世界を壊す化け物というのは、こんなケダモノなんだろうなと思った。

そいつによって僕の体は破壊された。対抗手段なんてものも無い。触手が僕の体を貫き、最後は原形をとどめずに殺される。きっと、まだ必要な鍵が足りなかったのだろう。こうして、世界は終わった。

これではいけない。

このままにはできない。

世界なんてどうでもいい。

せめて最後の日常だけは守りたい。

せめてあの人だけは守りたい。

それが、僕の望む最後のこと。

だから、僕は…
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